【刑部】閉じ込めていいの?VerEXアバターの特典シナリオ

―――ド変態野郎が。

刑部優心はそう心の中で吐き捨てると、恍惚の表情でストッキングに包まれた刑部の足を撫で上げる目の前の男を嫌悪の眼差しで見下ろした。
どうやら片目をふさがれているらしい。見えにくい視界が不愉快で舌打ちをうつ。

「ふふ。やっぱり思った通り、よく似合うね」

恭しく傅きヒールの高いナースシューズを履かせながら、ふわりと微笑む久世。十字の飾り付きの白と淡いピンクを基調としたデザインは愛らしいが、ナースシューズにしてはヒールの細すぎるそれは、明らかにコスプレ用としてのデザインのそれだった。

「…似合ってるわけねえだろうが」
「そう?…とっても可愛いと思うけど…。うーん、ちょっと待っててね」

久世はそう言いついでとばかりに刑部の太ももを一撫ですると、よいしょと腰を上げ何処かに消えていった。振り向く気すらないが、カチャカチャと金属音が聞こえてくる事から、どうやら鍵を掛け直しているらしい。

――どうせろくな事じゃない。

そう心のなかで毒づき、自分の手首を戒める枷を見下ろす。行動を制限する気はないのだろう、片手だけ繋がれたそれはゆったりと長い鉄の鎖に繋がっており、刑部が身じろぐ度にじゃらりと重い金属音を響かせている。
キョロリと辺りを見渡せば、頼りない明かりで照らされているだけの、だだっ広いだけのその空間に思わず口元には笑みが零れた。
片隅に置かれた質素のパイプベッドだけが、その部屋のなかの唯一の家具であった。

「こんなものまで用意して…頭オカシイんじゃねえの」

刑部が呟いたこんなもの、とはベッドのことではない。この空間すべてを指している。
刑部が閉じ込められている此処は、一寸の光も届かない地下牢だ。

仕事帰り、久世に食事に誘われた刑部は不本意ながらも久世の部屋へと招かれていた。其処で勧められるままに酒をあおり、それがいけなかったのだろう。とっくに許容量をオーバーしていた刑部は、すっかりと酔いが回ってしまったのだろう、気付けば意識を飛ばしていた。それは数十分か、はたまた数時間経過していたのか。時計がないこの部屋ではなに一つ判断が出来ないけれど。

そうして目が覚めれば刑部はここにいた。
しかも刑部を閉じ込めた張本人である久世は、それが異常なことであると認識していないのだろう。刑部の足元に跪いて、蕩けるような笑みを浮かべていたのだ。

―――ほんっと、会社の女共に見せてやりてえ。
虫も殺さぬような顔をしたこの男が、同じ男である刑部を閉じ込め鎖で拘束しただけでは飽き足らず、意識のない刑部の服を剥いて女装を強要するような変態ヤロウなのだと。

「お待たせ、優心。ひとりで寂しかった?」

ぼそぼそとひとり悪態を吐き続けていると、いつの間にか久世は後ろに突っ立っていたらしい。耳元で囁かれ、刑部は思わずびくりと肩を震わせてしまった。
この距離で刑部の大きく震えた肩に久世が気付かない筈はないだろう。けれど、久世は其処には触れることなく、すっと刑部の前に大きな姿見を置いた。

「……それどころか、あんたがいなくなって清々しましたよ」
「ふふ、優心ったら相変わらず口が悪いんだから。…すごく可愛い」

何を言ったってまるで効果がない。そもそも聞こえていないのではないかと思ってしまうほどに、久世は刑部の悪態をさらりと躱す。
一体何処からこんな大きな姿見を引っ張り出して来たのか。そんな疑問を持つ事すら面倒臭くて、緩慢な動きで鏡の中に映る自分の姿を眺める。

すこしでも屈めば下着が見えてしまうのではと思うほどに短い丈のスカート。艶やかな絶対領域から覗くガーターベルトと総レースのストッキングは可愛らしさの中にも色気を孕んでいて。
そんな刑部を後ろから抱き寄せるようにして立つ、久世の姿が目に映る。刑部の華奢な腰に手をあて、するりと上下に撫で上げる。そうしてこちらに視線を向けたまま、鏡の中の久世は刑部の耳朶をぱくりと口に含み、耳元で囁くのだ。

「…ほら、とっても綺麗だよ、優心」

鏡の中の久世はねっとりとした視線でこちらを見つめていた。

※ ※

歯列を舌でなぞられ、舌を吸われる。口からはだらしない声が漏れ、じっとりと熱を持ちはじめる下腹部が窮屈な下着によって押さえつけられ痛みを孕む。

「ふぁ……んん…」
「…ん…、…はぁ…っ」

情けない声。熱っぽい吐息。
名残惜しげに唇を離され、また深く深くすべてを暴かれるような口づけが落とされて。

「……は、…んっ…もっと…」

快楽に弱い刑部はすっかりと蕩けきったような表情で久世に強請り、自ら熱を孕んだ身体を擦り寄せた。
けれど久世はそれを笑顔で躱し更に深く口づけ、絡んだ舌に歯を立てる。そうすれば口内に広がる独特の鉄の味は、美味しいとはいえないそれで。
痛みに一瞬顔を歪ませた刑部を気にもとめず、久世が更に舌先の傷を抉るように舌で突けば、口内には更に血の味が広がってゆく。それはキスというよりは、相手を痛めつける行為に近かった。

「…っ、ふ…ぅう…っ」
「…優心ったらこんなに痛い想いをしても興奮しちゃうんだね」

交わされる唾液、血の口づけ。鈍い痛みと、擦れ合う快楽。

「…は、ぁ…ンっ…」

だらしなく顎に伝うどちらのものともつかぬ唾液は、微かに赤が交じっていて。
痛い筈のそのキスすら今の刑部には快楽にしかならなくて、キツく締め付けられる下腹部がズキリと痛む。

――もっと、もっと強い刺激が欲しい。何も分からないくらい、ぐちゃぐちゃになりたい。あつい熱をもっと、もっと。

「……優心、かわいい…僕だけの優心…」
愛おしげに自分を掻き抱きながら何かを囁く久世の声もどこか遠くて、脳内を犯す耳障りな音が不愉快で。
張りつめた熱量を求めるように、強請るように。

「……貴裕」

ねっとりと滅多にしない下の名前を呼べば、久世は面白いぐらいにバッと顔を上げ鏡の中の刑部を見た。
まるで飼い犬がご主人サマにご褒美を貰ったかのようなその反応に、芽生えるのはオスとしての優越感。この完璧な男が、自分にだけは何処か歪ででたらめで邪な感情を抱いている。劣等感だらけの刑部に、だ。

刑部は後ろ手で昂った久世のものにそっと手を添え、そして――鏡の中の久世に向かって、誘うように舌舐めずりをしながら、短い丈のスカートを押し上げ主張するソレを見せつけるようにして、挑発的な笑みを浮かべた。

飽くまで欲しがっているのは自分ではなくお前の方だとでも言うかのように。
久世はそんな刑部の幼稚な感情を見抜いた上で、そんな子供じみたプライドすら愛おしいと言わんばかりの瞳で刑部を見つめ、刑部の望むままに浴衣の帯を緩めるのだった。

End…?