【穂積】スーツセットVerXアバターの特典シナリオ

――レベルMAX特別シナリオ―
――社内恋愛らぶらぶ…?編――

「ふぁ…」
「あれ、先輩…あくびなんて珍しいっすね…」

不意に毀れた欠伸。滲む視界に目を擦れば、隣に並んで歩く相浦が心配そうにこちらを見上げていた。

「ん、ああ……見られちゃったか。…昨日、すこしね…」
「……無理しないで下さいね」

ふにゃりと曖昧な笑みを浮かべながらそう言葉を濁せば、相浦はそれ以上追求しようとはせず、けれど心配げな瞳はそのままに僕を見上げて来るものだからつい髪の毛をぐしゃぐしゃと撫で回してしまった。

(…だって、相浦ったらまるで小犬のような顔をして僕を見上げて来るんだもの…)

見た目よりも柔らかい髪の毛が心地好くて、何度も何度も指で梳くように撫で回してしまう。
そうしていると、次第に相浦の顔はまるでリンゴのように真っ赤になっていき、なにやらプルプルと体を震わせていて。

「……あ、……俺っ、…おれ、……」

あわあわと落ち着きなく口を開閉させている姿はまるでエサを求める金魚みたいだ。
図体は決して小さい訳ではなく、むしろなにかしらの運動をしていたのだろうと分かる程度には鍛えられた体躯をしているというのに、どうしてだか僕は相浦のことを直ぐに小さいものに例えてしまう。
それは生意気な相浦が僕にだけは素直に懐き、慕ってくれているからかもしれない。僕の目の前では、いつだって相浦は大学時代の、あの頃のままなのだ。
こうして入社してからも、ずっとずっと変わらない、可愛い後輩。

(かわいい…な…)

「……俺、その―――」

そうして何かを訴えかけるように揺れる視線を僕に向けながら相浦がなにかを言いかけた、その瞬間。

「あれ、奇遇ですねえ…こんなところで」
「……穂積さん」

背後から声を掛けられ、その聞き覚えのある声に思わず顔を歪ませながらもゆったりと振り返る。
そうすれば案の定そこにいたのは、想像したとおりの人物そのひとで。

「……相変わらず仲良しですねえ、こんなトコで頭を撫でる、なんて一体どういう状況なんだか」
「これは……別に」

にやにやと人を茶化しているかのような厭らしい笑みを浮かべながらわざとらしく小首を傾げる穂積に、僕は思わず眉根に皺を寄せながら冷たく切り捨ててしまう。
いつもはどちらかと言えば辛抱強く、どんな相手でも顔に出さずに対応をする僕だが…この男、穂積慎之介だけはどうにも喧嘩腰になってしまうのだ。
恐らく穂積も僕がそういう反応を返すことを分かって、茶化しに来るのだろう。それが分かっているからこそ、余計に腹立たしいのだが。

(相変わらず胡散臭い人だな……)

「…先輩」

あからさまに人を挑発した態度のそれについつい乗ってしまい、相浦を放っておいてしまった。それが気に喰わなかったのだろう。
くい、と僕のワイシャツの裾を掴んで、自らの存在をアピールする相浦。…子供っぽい仕草に、思わず苦笑いを零してしまう。
悪い意味ではない。幼い動作が子供みたいで可愛らしく思ったのだ。

「あ、ごめんね相浦……えっと、それで?」
「いえ……大した話じゃないんでまた今度お話しますね…!」
「そう?…ごめんね」

相浦の方へと向き直り先ほどの言葉の続きを促すが、どうやら穂積の登場によりすっかりと出鼻を挫かれたのだろう。また今度と言われて、僕も思わず苦い笑みを零しながらその言葉にゆるく頷いたのだった。
そうして仕方なしに穂積の方へと向き直し、問いかける。

「……で、突然どうしたんですか」
「んー、ああ、ちょっとお前に用があってなァ」
「僕に?」
「おう。なンだ?俺がお前に用事がある、なんて言ったらオカシイか?」
「いえ……でも、ろくな用事じゃなさそうです」
「ひっでェの」

言葉とは裏腹にけらけらと笑う穂積。
その瞬間穂積が一瞬自分に向けた視線の意味に気付いたのだろう、相浦はすこし微妙な顔をしながらもゆるく頷いた。

「あ、俺……先に会社に戻ってますね」
「うん、僕もすぐに戻るよ」
「はい」

そうして僕の返答に小さく笑みを零し、相浦は次の瞬間にはいつもの笑顔で僕らに一礼したのだった。

(悪いことしちゃったかな……)

簡単に挨拶を交わすと、相浦はそのまま一人会社へと続く方向へと歩みを歩んでいく。
その背中が小さくなっていくのを見送って再び穂積の方へと向きやり、そうして話の続きを促した。

「それで、なんの用事なんですか。相浦を下がらせてまでする話なんて、あると思えないですけど」
「ははっ、つめてー奴。折角気を遣ってやったのに、感謝のひとつもないのかよ?そんなこと言うと返してやんねーぞ」
「は?」

あまりに唐突な言葉に、到底見当もつかない僕はつい間抜けな声を出してしまう。
そうしてその言葉と共に穂積が放ったなにかを、キャッチする。

「………これ、は……」
「お前の忘れモン」

助かったろ、なんて笑う穂積に沸いてくるのは怒り。
何故なら、僕の手のひらにおさまったそれは僕が先日無くしたと思っていたもので。
とは言っても特別大切にしていたものでもなく、代用がきくそれ。そんなモノをわざわざこうして連れを追い返してまでする話ではないと感じたからだ。
だからこそ気付いたのはーーきっと、これは飽くまでついでで、本当の目的はこれ以外だということ。そして、その内容は多分ーー。

「…ネクタイピン、いつ盗ったんですか」
「盗ったなんて、人聞きが悪い。…あんたが俺にがっついてる間になくしたんだろーが」
「がっついてなんか」
「ない、って言えんのかよ、王子様」

揶揄するようなその台詞に、それが何を指しているのか見当がついてしまい、カッと顔が熱くなる。
そうしてギリリ、と歯を噛みしめて穂積を睨み付けるも、当然穂積にはなんのダメージもなくそれどころか寧ろ僕の反応を面白がっている節さえあった。

「……ふふ、王子様って意外と激しいんですねえ。俺、驚いちゃいましたよ」
「黙れ」
「……おお、こわ」

穂積の言葉に、昨夜に記憶が蘇って来る。
あれは――どうかしていたのだ。正気に戻ってしまえば、沸いて来るのは嫌悪にも似た、激しい感情だというのに。

………………
……………………………
……………………………………………

それは本当に偶然の出来事だった。
クオリティ統括部で使用する資料を取りに資料室へと向かえば、資料室には先客—穂積慎之介がいたのだ。
聞けば穂積はもう不要となった資料を整理していたらしい。

「穂積さんがやる仕事じゃないでしょう」
「ン~でも、忙しそうにしてたしな……俺もちょうど仕事が片付いて暇してたから、代わってやったんだよ」
「………………」

よくもまあ、それだけの理由でこんな地道で、けれどキツイ仕事を代わりに引き受けたものだ……。よっぽど暇だったのだろうか、と僕は何だか怪訝な顔をしてしまう。

「……ふふ、しかし―まっさか資料室でふたりっきり、なんてねぇ…。絶好の機会じゃないですか」
「………なにつまらない事言ってるんですか、さっさと仕事しますよ」

膨大な量のそれ。ひとりでやっていたら、日が暮れてしまうだろう。
そう思い溜め息まじりに重い腰を上げ、乱雑に積まれた書類へと向きやるが、肝心の穂積はニヤニヤと相変わらず胡散臭い笑みを浮かべながらそんな僕の背中をジッと眺めているだけだった。

「……はー……もしかして、やる気ないんですか?」
「いーえ?やる気はありますよ」
「じゃあなんで―――」

そんなに余裕ぶっこいて、と続けようとした言葉は僕の口から毀れることはなくそのまま飲みこまれていった。

唇に感じるすこしカサついた、やわらかな感触。鼻が触れ合うくらいに近い距離にある顔は見慣れたもので。

「…な、……に…」

あまりの衝撃に僕は、抵抗することもせずただ間抜けな声を漏らしただけしか出来なかった。
そうしてゆっくりと唇が離れていき、視界いっぱいに映っていた顔が徐々に遠のき、そして穂積は微かに唾液で濡れた唇を指で拭い、そして。

「ごちそーさん」

にたり、と笑ったのだった。
その瞬間カッと顔中が赤くなり、激しい嫌悪感と鈍器で頭を思い切り殴られたかのような激しい衝撃と混乱のまま、穂積を睨み付けることしか出来なくて。

「―――…ふざけてるんですか?」
「いんや、俺はいつでも本気だぜ、王子様」
「王子様って呼ばないで下さい。その呼び方、嫌いなんですよね」
「……似合ってると思うけどねぇ」

あたかも渋々、と言ったような反応に、苛立ちが増す。
けれどそれすらも穂積の手の内のような気がして、素直に反応を返すことすら馬鹿馬鹿しく思えた。

「……ふぅ、……いいから仕事しましょうよ」
「―――その必要なねーよ?」
「は?」

ギシリ。
机を椅子のようにして其処に腰かけ体重を預けていた穂積が、厭にゆったりとした動きでこちらへと歩み寄ってきて。
そして――。

「………なんですか、この手」
「ん?……なに、ってナニ?」
「笑えない冗談ですね」
「冗談じゃないっつったら、どーすんだ?」

ふわり、と穂積が近付いた一瞬で、穂積から漂ってくるそれがいつものとはすこしだけ違うことに気が付いてしまう。
思わず顔を歪ませた僕に気付いたのか、クッと喉を慣らして笑う穂積。……ああ、きっとまた僕をからかう為に何かしでかしたのだろう。

(毎回そんな下らない挑発に乗ってしまう僕も僕だな…)

自分で自分を呆れながらも、どうしても無視することの出来ないそれ。
近付いてみれば、なお穂積に残されたそれらに、気付いてしまう。

きっちりと整えられたスーツの襟元から覗く白い首筋に咲くささやかな鬱血痕。
穂積の使っている整髪剤のにおいとはちがう、嗅ぎ慣れた男特有のもの。…平然とわらう穂積の顔が、すこし…蕩けていることにも、気付いてしまった。

「………、…」
「…ふ、……イイ顔…」

一体いつからこういう関係になったのか、それはもう覚えていないくらい些細な出来事がキッカケだったのかもしれない。
けれどいつからか、こうして穂積と体を重ねるようになって、気付いてしまったのだ。

「……もう黙ってくださいよ。貴方の言葉は、気分が悪くなる」
「いーねえ。王子様の焦れた顔。ゾクゾクしちまう」

無理やり唇を奪うようにして口づけながら、違う誰かの痕跡を残したそこに指を這わせる。
――いつからか、気付いてしまったのだ。自分の中にある、強い愛情とは違う、けれど確かに芽生えた独占欲に似た強く、ほの暗い感情に。

「あっは、随分と早急じゃないですか…らしくない」
「煩いですよ」

早急な手つきで穂積のスーツを脱がしていく。シャツを剥いでいけば、おびただしい数の赤い所有印の華が、白い肌に咲いていて。
それらを自分の印へと塗り替えるように、ひとつひとつ丁寧に唇を落としていった。

誰とも知らぬ所有印を体に散らしながら、僕の愛撫にみっともない表情を晒している男。すっかりと空気に晒された裸体は指を這わせる度、期待を隠そうともせずぶるりと震え、僕にもっとと強請るように擦り寄って来る始末だ。

――ふざけきった態度も緩さも、嫌悪を抱いて仕方ないはずなのに。

穂積のことを罵倒しながらも、どうしてか僕は自分から穂積に噛みつくように口づけて、そして既に濡れそぼったそこに自らのそそり立ったものを押しつけていたのだった。

――レベルMAX特別シナリオ―
――社内恋愛らぶらぶ…?編 fin――