らぐ主

※診断『三宮家の新しい執事を紹介します。』よりなんちゃってらぐ主。
名前:らぐ、年齢:30代後半、身長:185cm、職業:美容師、性格:お兄ちゃん、弱点:腰

「はっ、この変態ヤロウが」

相変わらず尊大な態度で豪華な椅子に腰掛けつつ侮蔑の言葉を吐き捨てたのは、我等が主、三宮万里その人である。
まるで虫けらでも見るような目付きで、こちらを見下ろしている。興奮交じりの表情は、愉悦すら含んでいて。妖艶な微笑を浮かべているというのに、その声は何処までも冷めきったそれだ。

「こんな男らしい男に、ドレスなんて着せて喜んでやがるのか?」
「……とても、綺麗ですよ」

馬鹿にされているというのに、見下ろされている男―らぐはその場にまるで似つかわしくないほど、華やかな笑みを零す。本当に心の底から、万里の事を綺麗だと思っているかのように。

――そもそも、何故こんな事になっているのか。

そのきっかけは、朝。
いつものように出勤して来たらぐに、執事たちが代わる代わる祝いの言葉を投げかけていたからだ。中にはきちんと用意していたのだろう、ご丁寧にプレゼントを渡す者すらいた。
らぐはこの歳で祝ってもらうのも気恥ずかしいと照れたような笑みでお礼の言葉を返していたが、やはり祝われて嬉しくない筈がないだろう。
その光景を見て、万里ははじめてらぐの誕生日だということを思い出した。言い訳をするならば、忙しかったのだ。普段からワーカーホリックの気がある万里ですら、鬱々とした気持ちになる程度には。

万里はイベント事が嫌いではない。否、むしろ好きな部類に入るだろう。
気まぐれにイベントを開催しては、屋敷の執事達を巻き込んで大騒ぎする程度には。
万里にとって、執事たちは大切な存在だ。普段そうは見せていなくても、彼らの誕生日があると必ず万里はささやかな(けれどそれは飽くまで万里にとっての、である)宴を開く。
勿論今回も例に漏れず、万里は橘を呼び付けるとそのまま離れでの簡易なパーティーを催す流れとなった。

丸山と小野寺により贅の尽くした料理が振る舞われ、自然と場の空気を盛り上げる五十嵐が中心となり騒ぎ出し、突然の宴会芸のような、余興が始まる。主役であるらぐは少し照れくさそうに、けれどやはり祝われて嬉しいのだろう。笑みを零しながら、そんな彼らのばか騒ぎを眺めていた。

「……ご主人様、」
「………なんだ」

視線はそのままに、隣に座る万里へ呼びかける。ふわりと花開くような笑みを浮かべながら。

「ありがとうございます」
「…………なんの事だ?」

万里の言葉に、らぐは今度はきちんと万里の方へと視線を向け、もう一度、笑う。
それは何処までも穏やかで、包み込むような笑みだった。

「誕生日、祝ってくれて」
「………お前だけじゃない」
「それでも、やっぱりご主人様から祝ってもらえるのが一番、嬉しかったですから」

皆には、申し訳ないですけど。だなんて、苦笑いを零して。
らぐの素直な言葉に、調子を狂わされた万里の頬が少し赤らんでいたことに、もちろんらぐは気付いていた。
それを指摘することは、なかったけれど。

宴もたけなわ。パーティーは最高潮の盛り上がりを見せていた。
けれど楽しげな雰囲気に普段よりも数段酒が進んだのだろう。執事たちは既に酩酊状態の者が多く、一部の者は既に酔い潰れている始末だ。

「……そろそろ終わりにするか」

まるでいつかの宴のようだ。万里は羽目を外し過ぎた執事たちの様子に、どうしようもないな、と苦笑いを零しながら宴の終わりを示す言葉を口にする。これ以上騒いでしまえば、きっと明日は揃いも揃って使い物にならないだろうから。
万里の考えを読んだのか、隣に座っていたらぐも同じように苦笑いを浮かべながら、頷いて腰を上げた。恐らく辛うじて生き残っているメンバーと協力して、潰れてしまった者達を部屋に送るつもりなのだろう。

「らぐ」
「……はい?」

思わずその腕を掴んで、引き留める。
不思議そうな顔で振り返るらぐに、万里はため息を零した。

「主役がそんなことをするな」
「でも、このままだと風邪を引いてしまいますよ」

まるで松木のような事をいう。そう考え苦笑いを零すと、同じようにらぐも考えたのだろう。今の、なんとなく松木さんっぽかったですね、だなんて言う始末だ。

「兎に角、後始末は橘にでも任せておけ―――行くぞ」
「……え?」

万里はそれだけ言うと、らぐの腕を掴み部屋を後にしたのだった―――。

「……ここは?」
「何度か連れて来ただろう?」

万里によって連れて来られたのは宴の会場からだいぶ離れた、一室。落ち着いた畳の匂いに、らぐは無意識のうちにほうっとため息を吐く。
気を付けて飲んでいたつもりが、自分も知らず知らずのうちに宴の雰囲気に飲まれていたのだろうか。普段よりもペースを早く、酒をあおっていたのかもしれない。

「ええ、ですが」

自分を此処に連れたって、どうするつもりなのか。そんな問いかけを含んだ眸で万里を見据えれば、万里はふっと口許に笑みをつくった。

「俺からのプレゼントをまだ、与えていないだろう」
「?既に、ステキなパーティーを開いて頂きましたよ」
「それは執事全員にやってやっていることだ。お前だけのプレゼントを俺はまだ渡していない」

その言葉と共に、万里は掴んだままのらぐの腕をぐいっと無遠慮に引き寄せる。
突然のことにらぐはそのまま万里の方へと体勢を崩し、万里を巻き込むようにして二人は畳へと倒れ込んでしまうのだった。

「ん…」

噛みつくように口付けられ、熱を孕んだ万里の眸に見つめられたらぐは、目を細めてその口付けに応えるように舌を突き出した。
どちらともなく舌を絡ませ合い身体を抱き寄せれば、酒により熱の籠っていた身体が、余計に熱を含む。

「さあ、なんでも言え。お前はなにが欲しい」

まるで遊女のように妖艶に、淫靡に。唾液で濡れた万里の唇は、誘うように弧を描いて。

否、事実誘っているのだ。試している。まるで今現在ですら遊びの延長線だとでもいうかのように。らぐの反応を楽しんでいるのだろう。けれど、そんな万里の小悪魔な性質にすら気を悪くするどころか、可愛いとすら思ってしまうのだから、らぐも大抵歪んでいるのだ。

かわいい。かわいくて仕方がない。その余裕が何処まで持つのか、試してみたいとすら思う。騙されたふりをして、従順なふりをして噛みつくスキを狙う犬のように。らぐは、仄暗い欲望を含んだ想いなど、素振りも見せず、にこりと笑う。

「それなら普段見れないご主人様の姿が見たいですね」

その言葉に、万里は小首を傾げる。かわいい。

「折角だから―――花嫁姿、とか?」
「ふはっ、お前…冗談がうまいじゃないか」
「やだな。俺、冗談って苦手なんです」

真面目な顔をして言ったらぐの言葉を、冗談と取ったのだろう。
万里はクツクツと喉を鳴らしながら、吹き出した。

「今日一日だけ、俺のお嫁さんになってくださいよ」

いつもの穏やかな声とはまるで違う、壮絶な色気を含んだ声色でらぐは万里の耳元でそう囁く。
ピクン、と微かに身体を震わせる万里の様子を、愛おしげに眺めながら。

※ ※ ※

ふんだんにレースがあしらわれたウェディングドレスは、鍛え抜かれた万里の身体にぴったりとフィットするそれで。

「……お前、こんなものを持ってるとはな」

呆れたような万里の視線にも、らぐは笑みを返すのみだった。
仕上げとばかりにベールを被せ、完成した万里の花嫁姿を舐めまわすように眺めた後、蕩けきった表情を浮かべる。

「よく似合ってます」
「本気で言ってるとしたら、お前の目はいかれてンな。」

純和風の畳の部屋にはちぐはぐな豪華絢爛なウェディングドレスの出で立ちで、万里は呆れかえったようなため息を零す。
万里は椅子に腰掛けながら脚を組み、つまらなそうに頬杖をつく。この部屋には相応しくない豪華な椅子も、ウェディングドレスと同じくらぐが持ち込んだものだ。
畳に座りながら、にこにことこちらを見上げているらぐの姿に悪態を吐き捨てる万里。何を言っても、この男は万里を褒めることしかしなかった。

「……お前やっぱ眼科行った方が良いんじゃねえか?」

ドレスの裾から見える脚も、剥き出しの腕も、ドレスに包まれた胸も、なにもかもが筋肉のついた男のものである。
性別を間違えられることはないとはいえ、綺麗な顔をした万里だが、やはりウェディングドレスが似合っているとは言えない。…寧ろ、その逆であろう。いま鏡に向かえと言われたら、吐き気を覚える自信があった。

「綺麗だ」

華やかさの中に、確かな欲情を含ませて。らぐは肘掛けへと手を付くと、万里の唇に噛みつくように口付ける。支えにした手とは反対の手で、悪戯に万里の身体をまさぐりながら。

「ン…っ、ん…」

なめらかなドレスの布の上から、悪戯に身体を弄られ、そのじれったさに思わず身じろぐ。
万里の良いところを掠めながらも、決定打は与えない。手慣れた、愛撫。

「かわいい、俺の花嫁さん」

万里のセックスが荒々しく相手を制圧するようなものだとしたら、らぐのセックスは甘い毒でじんわりと相手の内側を苛むそれだ。じっくりと、長い時間を掛けて相手の全てを奪いつくす。

耳朶を甘噛みしながら、いつものものよりも低い掠れた声が、熱を含んで万里の鼓膜を犯す。
否応なしにぶるり、と身体が震えた。鼓膜から、身体の中心へと熱が籠る。呆気なく、奪われる。

「今だけは俺だけのものだ」

椅子に座ったままの万里を椅子から落ちない程度に浅く座らせると、背もたれに身体を預けさせる。そうしてそのまま片足を持ち上げると、自分の肩に乗せて、ドレスの裾をめくり上げ、頭を潜り込ませた。

「な…っ、ンん…っ」

ドレスのナカで悪戯に動くらぐの様子は、万里からはわからない。突然、熱い息が吹きかけられたと思ったら、女物のパンティの上から万里の熱を持ったそこをくわえ込まれた。
ただでさえ窮屈なパンティから、ぎゅうぎゅうと熱を持った万里の昂りが解放を求めるように布の押し上げる。
はむ、と皮を引っ張るように、らぐの巧みな舌遣いにより万里の熱は更に高まっていく。唾液と万里の我慢汁により、パンティにはくっきりとペニスの形と血管が浮き出て、透けてしまっていた。

「くっ、は…ぁん…っ」

まるで目隠しをされているような、何処を攻め立てられるのかわからない快楽。
らぐにより掴まれた片足により、股を閉じさせる事もかなわない。
既に下着はその役目を果たしておらず、窮屈そうに押し込められていたそれは完全に勃起し、ついに隙き間から顔を出していた。腹にぴったりとくっ付く熱量に、先ほどまでの布越しとは違う直接舌で抉られるその感覚に、万里は何とも言えず鼻にかかったような甘いため息しか吐き出せないでいた。

「ねえ、そうでしょう、俺の花嫁さん?」

ペニスに吐息まじりの息を吹きかけられ、堪らずびくんびくんと腰を震わせる万里。
らぐは普段は丁重な口調なのだが、行為の時にだけそれが砕けたものになる。けれど、けれど時折、その口調が丁重なものに戻るのだ。そのギャップが、入れ替わる瞬間が、万里は堪らなくスキだった。

「…く、くく…っ」

快楽に蕩けきった眸で、万里は喉を鳴らすようにして笑う。

「調子に乗るなよ。いつだって俺は、俺だけのものだ」

下半身をぐちゃぐしゃにさせ、女物のドレスを着せられているというのに、万里の圧倒的な存在感は変わらない。その態度は、崩れない。

らぐはそれが面白くて可愛らしくて、たまらなかった。その態度を崩したいと、男の本能がそそられるのだ。けれど、一方で崩したくないと思う。
どんな時でも勝者の態度を壊さない万里を、好ましく思うからだ。らぐもまた、圧倒的なその存在に陶酔している一人である。

「ふ…っ、ふふふっ――そうでしたね、その通りだ」

楽しくてたまらない。そんな表情で、らぐは笑う。
そしてらぐらしからぬ荒っぽい手つきで万里の脚を掴むと、座面の先端に尻を乗せるような体勢まで引き摺り下ろすと、そのまま腰上までドレスの裾を持ち上げた。

かわいらしいパンティの隙き間からは、グロテスクですらあるものが覗いていて。
純白に身を包んだ万里の、暴かれた下半身は剥き出しになった欲望がくっきりと屹立していた。

「えっちな花嫁さんだ。そんな顔されると、もっともっと乱してやりたくなる」

はっきりと欲望の色を含んだらぐの眸に見つめられ、万里の表情は蕩けきったものになる。
今もぐいぐいとパンティを押し上げるそこにゆったりと手を伸ばすと、万里は耐えきれないと言った様子で熱いと息まじりのため息を漏らし腰を持ち上げた。

「かわいい催促」
「…は、ぁ…」

逃がさない、といった様子で両脚でらぐを挟み込んで。
早く触れてくれ、といわんばかりの目でそれをらぐの手に押しつける。

「いいよ、あげる」

――可愛いから、特別。
悪戯めいた笑みを浮かべながら、らぐは万里のパンティを下ろすと勢いよく飛び出して来た万里のそれに、ソッと唇を寄せた。

「っぁ…!あ、そ…こ…っ」
「欲張りのお嫁さんを満足させるのも、旦那さんの務めだものね」

からかいを含みながらも、らぐの舌先は万里の弱いところを的確に攻め立てる。
そうしてゆっくりと焦らすようにジッパーを下し、自らの昂ったそこを解放させれば、その音を聞き期待を込めた眸で自分を見つめて来る万里に口付けを落として。

「は、やく…っ」

自分から脚を開いて涙で潤んだ眸をキッと釣り上げる万里に、フッと笑みを零した。
そうしてそのまま両足を掴むと、膝立ちの状態から腰を浮かせて、万里のひくつくソコに自分のものを押しつけ、そして――。

「―――期待、してるね」

決してすぐには与えようとせず、意地悪い笑みを浮かべると刺激により閉じたソコに、構わず先端だけを突き刺した。

「ひ、ぁ、あっ、ぁあッ」
「は…ぁ、食いちぎられそ…」

刺激に弱い亀頭が、強い締め付けを受け思わず吐息まじりのため息が零れる。
何度も何度も乱暴に腰を打ちつければ、万里はらぐに縋り付くように抱きついてきて。

「も、っと…もっと、奥も、ほし…っ」

可愛らしい万里のおねだりに、フっと笑みが零れる。

「うん、あげる。いっぱいいっぱいあげる」
「ぁ、ああっ!!…ら、ぐ…っ!」
「俺でいっぱいになって」

清廉な花嫁の、淫らなおねだりに堪らずに、先ほどよりも激しく腰を打ちつけて、噛みつくような口付けを交わす。何度も、何度も。

「――…っっつ!!」

何度も何度も前立腺を抉るように攻め立てれば、やがてびくびくとナカが痙攣し、万里の限界を告げて。
目を見開いて、まるで金魚が餌を強請るようにぱくぱくと口を開閉させる万里が、どうしようもなく愛おしくて、らぐは強く強く万里の身体を掻き抱いた。

「い、…しょに…っ」
「う、ん。俺も…も、すぐ…っ」

それでも懸命に、達するのを我慢して一緒にイきたいと強請る万里に頷いて、らぐはラストスパートと言わんばかりに腰の動きを早める。
何度も何度も口付けを交わし合って、万里の口から息絶え絶えに、漏れる言葉。

「おめ、…でと…な」

らぐの動きが、一瞬とまる。思わず目を見開いて万里の顔をしげしげと眺めていたら、照れ隠しのように頭をはたかれた。

「…………はい」

まさか、この男が。この男から到底出ることもないと思っていた、言葉だった。祝ってくれる気持ちは勿論知っていたけれど、まさか。言葉まで贈られるだなんて、思ってもいなかったのだ。

「最高のプレゼントを、ありがとう。…万里」

穏やかな笑みとは裏腹に、万里のすべてを貪り尽くすかのように、その行為は息つく間もないくらいに、激しく荒く。終焉は、すぐソコに。

「…ぁあ、ぁっ、い、く…っっ!!!」
「……っ」

やがてどちらともなく身体を震わせ互いの腹に欲望を吐き出せば、らぐは万里の上へとのしかかるように体重を預け、ぎゅうっと身体を抱き寄せた。

いつの間に取れたのか、床へと落ちていたベールを手繰り寄せ、それを万里の頭に乗せると、ふわりと柔らかな笑みを浮かべる。

「やっぱり、綺麗だ」
「またそれか」

純白のドレスはよれてシワになり、白濁液に汚れていて、剥き出しになった下半身は欲望をまき散らし、尻からは男の精液を垂らしながら。
だらしなく涎を垂らしながら恍惚の表情を浮かべる大の男を、この男は綺麗だと言う。

けれど今度は、万里はその言葉に侮蔑の表情は浮かべなかった。寧ろ、困ったように、けれど何処か照れくさそうに、笑う。

「ステキな誕生日を、ありがとうございました。ご主人様」

むしろ、切り替わったその口調に、残念だと思ってしまう程には、万里はこのセックスに満足していた。
いつもは大人っぽく穏やかな男の、欲望を剥き出しにした行為に、蕩けきっていたのである。

「ふ…、当然だろう」

痛む腰を庇いながら、万里も同じように普段のソレに表情を切り替えて。

この男の欲望を引き出せるのが自分だけだという優越感に、思いのほかこの男を気に入っている自分に、万里は苦笑いにも似た笑みを零すのだった。