さく主

バイトをクビになった。
それも同僚が客に執拗なナンパをされ、それを庇って客と口論になった事が原因で。

「……なんか良いバイトないかなあ」

都内の大学への合格がきっかけで上京し、小さなアパートでの一人暮らし。いくらささやかな暮らしとはいえ、細々した出費も積もれば馬鹿にならない額となる。
つまり、収入がなければ生活さえままならない訳で。

要するに俺は今、絶賛バイト探し中な訳である。

後悔している、と言えば嘘ではないけれど。もしあの時に戻れたとしても、きっと、今と全く同じ選択をしていたような気がする。

気の良いヤツだった。同僚である以前に、友達だった。
そんな相手が困っていたら、損得関係なしに助けるのはなんら可笑しいことではないだろう。例え、その結果こうしてバイト先を失ったとしても、ありがとうの一言で素直に助けて良かった、と思うのだ。

「……あーあ。ほんっと、ついてねー」

求人紙を捲っても捲っても、めぼしいところは見つからない。給料が安い、場所が悪い、そもそも求人条件が違う。エトセトラ、エトセトラ。

「……はぁ」

薄い求人紙を放り投げ、頬杖を突く。そうして、ごろりと床に転がって、天井を見上げて。
あ、あんなとこに染みが出来てる、だなんてどうでもイイことに意識を飛ばした。要するに、現実逃避というやつだ。

「……ン?」

プルル、と色気のないデフォルトの着信音。それは、俺の携帯から発せられていて。
バイトをクビになったあの時からずっと部屋の隅に置き捨てたままのバッグ。その中に乱雑に入ったままの携帯を掴み、緩慢な動きで画面を見る。
それは元バイト先の同僚からの着信で。一体何の用事だ、と小首を傾げながら応答すれば、少し興奮しているのだろう、いつもよりも一オクターブほど高い声色で、口早に用件を述べ始めて。

『さく!さく…!俺さ、さくに良いバイト先薦めたくてさ!』
「……は?」
『…あのさ、俺の知り合いが日給三万で人を雇いたいらしいんだ!それで俺、その…お前の話をその人にしたらさ、すげえ気に入られて、是非一度来て欲しいって』
「……日給三万!?そんなのn『でな、俺お前の住所教えたから!多分今日くらいに迎えが来ると思うから頑張ってな!…ほんと、俺、悪いと思ってんだ…俺がもっとハッキリやだって言えれば良かったのに、そしたらお前、こんな事しないで良かったのに、って…』…ハッ!?ちょ、そんな突然………それに、もう気にすんなって、言っただろ」
『気にしない訳ないだろ…!だから、さ。その…ちょっと突然だけど、俺の気持ちと思って、せめて一度話を聞いて来てくれよ。な?』
「お前、そんな事急に言われたって…」
『じゃ、頑張れな。さく』

何かの間違いじゃないか、という俺の言葉は同僚のマシンガントークより続きを紡ぐ事はかなわなかった。
好意での事とは思うが、あまりにも突然過ぎる。今日もし俺が予定があって留守にしていたらどうするつもりだったんだか。
俺の当たり前の言い分も、絶賛から回り中の同僚の耳には入らない。言いたい事だけ告げ、さっさと通話を切られ、思わず俺が嘆きの声を漏らしたのも当然の反応だと思う。

「………嘘だろ」

どう考えても、怪しいアルバイトに違いない。
ホストか、アダルトビデオの男優役でもやらされるのか。

考えれば考えるだけ、憂鬱な気分に陥って。
もうどうにでもなれ、と開き直ってしまった俺は、バイトをクビになったあの時から、自棄になっていたのかもしれない。

♂ ♂ ♂

首が痛むほど高い、白亜の大豪邸。
今俺を乗せて来た車は、最高級の外国車。所謂セレブといえば、なアレだ。

「………は」

そして初対面な筈の俺に恭しく頭を垂れ、口々に「ご主人様」と口にするイケメンな男たち。…皆燕尾服を着ている。所謂、執事というヤツなのだろう。

「ようこそいらっしゃいました。さく様。…ああ、この日を待ち詫びておりました」

きっと執事頭なのだろう。長身の眼鏡を掛けた男が一歩前へ出て、また恭しく一礼して。何処か恍惚の表情を浮かべた男に、少しだけ悪寒が走る。

「さあ、お仕事の説明をさせて頂きますので、こちらへ」

そう言って案内された応接間に入り、これまた最高級であろうと思われるソファに腰掛け男からの説明を受ける。

要するに、アルバイトの概要はこういうことだ。
屋敷の本来の主である人間は現在家を空けているが、不在の間も執事としての職務を全うせねばならない彼らは、代役の『ご主人様』を探している、と。

「さく様は、ただ座っているだけで結構でございます」
「……執事としての、職務って例えばどういうヤツなんだ?」
「そうでございますね…例えば、ご主人様の給仕や身の回りの世話や、補佐などを致します」
「俺には必要ないな」
「そうおっしゃらず、どうぞお願い致します…!」

そう言って頭を垂れた男に、どうしてだかゾクリとした。
先ほどまでとは違う、これは懇願。心の奥底から乞っているのだ。
この少し話しただけでも解る、失敗などありえない、というような完璧を絵にしたような男が、ただの男である自分に。

「……ふ、ぅ…ん。そんなに困ってんだ」
「…は、い」
「でもそれ、俺じゃなくても出来るよね」
「貴方様じゃなくては、駄目なのです…」
「なんで?」
「……え」
「なんで、俺じゃないと駄目なのか教えてよ」

自分よりも年上であろう男を、攻める。
瞳を揺らし、突然の俺の豹変に驚き、答えを考えあぐねているのだろう男の、困惑にも似た表情。

「……恥ずかしながら、執事の中にはまだ未熟な者もおります故…至らない執事への、命令と叱咤を…貴方様ならば遠慮なく行って頂けると、そう思いました、ので」
「へぇ」

面白そうだ。普段ならとても味わえないような贅沢と、普段ならば自分よりも立場が上であろう男にへこへこされる。そんな優越感に、浸れる。それも、金を貰って
、こんな豪邸に住みながら。

「いいよ、そのアルバイト…受けてあげるよ」

にやり、と笑いながら。
ところどころに感じる小さな違和感には、気付かないふりをして。

♂ ♂ ♂

懐かしい、夢を見た。
これは、ああ。確か自分がこの屋敷に来た当初の夢だった気がする。

「……なに考えてるんだよ、ご主人様」

ぼんやりと思案に暮れていると、隣からグイグイと腕を掴まれ、そちらへ向くと拗ねたように唇を突き出す万里の姿があった。

「ん?お前のことだよ」
「………!…ウソつけ」

そう良いながらも嬉しそうに頬を赤らめる万里に、クツクツと喉を鳴らしながら昨夜の名残で生まれたままの姿の体を抱き寄せ、耳を食む。

「…ン、ぁ…ッ」

万里は、この屋敷の元の主がやっている事業の、ライバル会社の社長だった。つまり、元々この屋敷に居た訳ではない。
前の主の仕事を受け継いだ俺が目を付け、万里の会社を傘下に置き、こうしてうちの執事と仕立て上げたのだ。
もちろん一介の大学生だった俺が簡単に会社を一つ降せる力はなく、其処はこの会社の力と執事頭である橘の手を借りたわけだが。
ああ、面白かったのは橘と万里が顔見知りだった事か。俺が万里を降し、執事にしたいと言うと微妙な顔をしたが、散々調教し尽くした橘が俺の命令を聞かない筈がない。
直ぐに頷かないのでお仕置きをしながら再度命令を下せば、白濁をまき散らしながらすぐに頷いたものだ。

「ん?…あっはははは、お前もう勃ってんじゃねえか」
「…ん、ぁ…こ、れは…ちが…っ」
「違う?どの口が言ってんだか。くく、俺がお前をそうさせたんだもんなあ」

きっとこの屋敷が、俺を可笑しくさせた。
この屋敷の執事は至らない奴らばかりだ。俺が性欲処理として体を貪ってやる度に、愛してる、だの好きだだの、そんなクダラナイ事ばかりのたまいやがる。俺が男に好意を抱かれて応えるような男だと、そんな幻想を抱いてやがるのだ。

目の前の万里だって。最初こそは俺に反抗し、今にも殺してしまいそうな目で睨みつけて来たくせに、今やこうしてケツマンを掘ってやる度にチンコからきたねえ液をまき散らして、ひいひい喘ぎまくる始末だ。

「挿れてやるよ。ベッドに四つん這いになれ」
「…あ…」

勝ち気な瞳を潤ませ、言われるがままにこっちに尻を突き出すような体勢になる万里。

開閉させる度に孔から、昨日出したカピカピの液が零れ落ち、その光景にたまらず舌舐めずりをして。

「…ああぁああああ!!!!!」

慣らしもせずに一気に突き刺して、痛みに震える万里を気遣うこともせずに勢い良く抽送を繰り返す。
ハメまくってガバガバのケツマンが、裂ける。俺の出した精液と交じって、抽送を繰り返す度にシーツにはイチゴミルクの染みが出来た。

「あああああっ!すご、…がっ、ぁああ!ご、ごりごり…ナカ、ごりごりして…あああっ、うぐ、ぐ、あ、あ、あ、あぁあああああ!!!!!」
「うお、おおおっ、あぁ…っ!すげ、…気持ちいいっ、焦らしもせずにつっこんで、みっともなくアンアン喘いでる万里の中、うごうごして気持ちいい―っ!!」
「はぁああん、あ”ああアあぁぁああアア!!!なか、なかでちんこが…ちんこが俺のまんこズンズンして…ザーメンっ、ザーメンほし…あはあぁあ…っ、いぐうううぅう!!!」

万里は自分から尻を擦り付け、更に深く俺のチンコを味わおうと舌舐めずりをして、勢い良く精液を吐き出した。

この屋敷の執事たちには、様々な”特殊”がある。露出狂、ドM、精飲、女装癖、そして――万里の持つ”特殊”は病的なまでの、セックス依存症だということ。チンコに対して異常なまでの執着を抱いているのだ。

「う、おおおっ、あああぁ、く…っ、気持ちいい…っ!!!!プライドの塊の万里が、チンコ強請りながら男にガン堀りされてっ、アヘアへ逝ってる変態元社長野郎のイキマン最高だっっ、ああ、俺も――いくっ!!!!」

何度も何度も達したばかりでひくつく万里の中に吐き出して、痛いくらいに紅く腫れた万里のチンコの先端をぐりぐりとつま先で掻き回す。

「ぁあああ!!いだい、いだいいいいい!!!チンコの先に爪立てないでええ!!!!!ひぎぁああ!!!いぐう!まだ、いっでるのにいい!!でちゃううう!!!!!」

体を弓ならせ、チンコから顔に勢いよく掛かるくらいの大量の潮を吹き出して、万里はびくんびくんと震えながら、潮を噴いたことにまたアヘアへと絶頂した。

「はぁ、…はぁ」

荒く呼吸を繰り返しながら、万里の中からチンコを抜き、気怠い身体に鞭を打って、起き上がる。
俺のチンコの形にぱっくりと開いたままのケツマンをひくつかせ、万里はヨダレを垂らしながらびくんびくんと痙攣していて。

「は…」
「ぁ…ん、はぁ…ご、主人さま…っ、俺、に…」
「ん?なんだ、まだ何かあるのか」
「チンコしゃぶらせてくれ、よ…はぁ…」
「くくっ、あんだけ食わしてやったのに、まだ欲しいのか」
「あぁ…ほし、ちんこ…ほしいい」
「好きにしろ」

良いながらズボンの前を寛がせ、精液を出し切りすっかりと萎えたそれを鼻先に向ける。そうすれば万里は嬉しそうに頬を緩ませて、それにむしゃぶりつくのだった。

「はは…っ、精液のむわっとしたにおい…くっさ…ぁ…おいし」
「なんだ。お前も精飲に鞍替えしたのか」
「俺は、お前のチンコだからイイんだよ」
「ウソつけ。だらしねーケツマンにチンコずこばこされるのが好きなだけだろ。ド変態が」

他の執事は執事同士でヤらせると助けを乞うようにするが、万里はチンコをはめられると其処でもう落ちてしまうド変態なのだ。
事業を手伝わせ手柄を立てたご褒美として、一度執事全員でマワしてやった時は頭が可笑しくなるくらい喘いでいたものだ。

「安心しろよ、万里。」

このアルバイトをはじめて、そして前当主であるジジイ――俺のオヤジが死んですべてが俺のものになったあの時から、この屋敷にいるすべての執事は俺のものなのだ。

お前は俺に見初められ、この屋敷に来たあの瞬間から。
もう一生この屋敷から、俺からは逃げられないのだから―――。

「お前は一生、俺のものだ」