万久世√

その時、俺の携帯が着信を告げた。
画面には先ほど電話していたばかりの『久世貴裕』の文字が。
わざと電話に出ずに放置したままでいると、それは何コールかした後に、ぷつりと着信音が切れて。
そのまま画面を眺めていると、また、着信が掛かって来る。…恐らく俺が出続けるまで、鳴らす気なのだろう。

「ふ、」

こちらから掛けた時にはそっけなく切ってしまった癖に、いざ切ってしまうと俺が、また山野井と睦み合っているのではないかと不安になる。なんて不器用で、可愛いやつなのか。

「―――もしもし」
『…!……あ、の、いま、部屋の…前にいるんですが』

その言葉に、俺の口許が釣り上がる。

「…開いてるから、入って来れば良い」
『―――わかり、ました』

俺のその言葉に、緊張感からか硬かった声色が少し、和らいだような気がした。

「……どうかしたのか?」
「貴方が呼んだんでしょう」

ため息まじりにそう言いながら、久世は促されるままにソファに腰を下ろして。

「くっく、そうだったか?」
「……ハァ」

はぐらかす気もないソレに、久世はただため息を漏らすだけだった。
恐らく、久世は聞きたい事があるから此処に来たのだろう。そして、その結果を久世はもう既に決めつけているのだ。

「……貴方の無限伴侶は、あの人ですか」
「…………ああ」
「…ッ」

俺の言葉に久世は酷く傷ついたような表情を浮かべ、そして唇が切れるくらいに歯を噛みしめた。

(そんな……っ!!聞きたくない!聞きたくない、聞きたくない!!!……壊れたく、ない……!!)

壊れてしまうという恐怖と、無限伴侶という鎖で強制的に植え付けられた俺への、好意による、絶望。それらに押し潰されて、久世は顔面を蒼白にさせながら、ブンブンと首を振った。

(どうしたら、三宮さんを振り向かせることが、出来るんだ…ッ!!)
「――――なあ、イイコト教えてやろうか」

善意の振りをして、にやりと挑発めいた笑みを携えて、
俺は久世に救いの手を差し伸べるのだった。

……………
………………………
……………………………………

「…う…ぁっ!!」

久世のそそり立った屹立に舌を這わせ、時折だらしなく涎を垂らす先端を抉るようにして舌を差し入れてやれば、久世は悩ましげに眉を顰めながら、逃げるように腰をくねらせて、
女にされるより的確で激しい責めに、呻くような声を上げる。

「ああ、舐めても舐めても…どんどん溢れて来るな」
「……い、うな…ッ」

白い頬はすっかり紅潮し、ペニスを責め立てながら時折胸を弄ってやれば、くすぐったそうに声をあげながらも、されるがままに与えられる刺激を甘受していた。

「……ひ…ぅッ、ンぁ…っ」
「―――そろそろ、良いか」
「ぁ、」

そろそろ達してしまいそうな程、熱を持ったそれの根元を枕元に置いてあったリボンで括り、達せないようにすれば、久世は痛みに喘いだ。
赤黒く変色したグロテスクなそれに、ちょこんと結ばれたかわいらしいリボンがひどくアンバランスで、倒錯的な感覚に囚われる。

「……い、や…だ。これ…っ、と…って…!」
「――まだイかれちゃ困ンだよ。俺が、楽しめてねぇ」
「ふ、ぅ…う…っ」

駄々っ子のようにイヤイヤと首を振る久世の頭を掴み、ズボン越しに既に存在を主張するように大きく育った自身を頬に当てた。
そうすれば久世は頬に当たる熱量に微かに嫌悪感が混じったように顔を歪ませ、けれど拒絶する意思はないのかされるがままになっていて。

「舐めろ」
「……ッ!?…く…ぅ…」
「ああ…手は使わず口だけでシろよ」

当然男のものなど舐めたこともないのだろう。久世は俺の発言に躊躇うような、怒ったような複雑な表情のまま、暫く困ったように視線をうろうろとさせていたが、やがて意を決したように口だけでチャックを下ろすと、器用に舌で下着の前を寛がせ、大きく育ったそれを取り出した。

「…ッ、」

取り出して、改めて視界にうつるそれに躊躇した様子だったが、俺の視線に急かされるようにゆっくりと舌を這わせ、唇で食み、そして更に育ったそれを、今度は大きく口を開き、口内に招き入れる。
段々と大胆になっていく舌遣いに思わず声を漏らすと、久世は嬉しそうに頬を緩ませた。

「ん、…んちゅ……ふ、ぁ…っ」
「…ン、あぁ…上手いな…」

お淑やかそうな顔をして、久世は大胆な舌遣いで男のものを美味しそうに咥えしゃぶっている。
倒錯的な現状に興奮しているのだろう、なんの刺激も得られていない筈の久世のカラダは熱を持ち、荒く呼吸を繰り返していた。

「…ふ、咥えただけでコーフンしちまったのか?…勃ってるぞ」
「ぁ…ッ」

膝で未だリボンで縛られたままのソコをくいくいと刺激しながら、ぷっくりと赤く育った乳首を虐め抜いてやれば、久世はビクンとカラダを震わせながら蕩けた表情でそれを甘受していて。

「……くっく、すっかり男に目覚めたみてーだな」
「ち、が…っ」

(僕は、貴方だから…三宮さんだから、こんなに…)

否定の言葉と共に、久世の一途なまでの胸の内が頭に入り込んで来て、また笑う。
いっそ盲目なまでに綺麗な心だ。コイツは俺が死ねと言ったらもしかしたら死んでしまうんじゃないだろうか。

「ン…っ」

久世を俺の上へと股がらせると、なんとなく何をされるか理解しているのだろう、久世は怯えと期待が混ざり合ったような表情を浮かべながら、俺の手に指を絡ませ、所謂恋人繋ぎ、というやつをして。
それからゆっくりと体を前へ傾けて、自ら唇を重ね合わせて来た。

最初の頃のような、男同士による嫌悪感は既に久世の中には存在していないのだろう。
あるのは日にちが経つにつれ、どんどんと膨らんでいく狂気なまでの恋心。
刷り込みから始まったその想いすら、今はなにをしたって戻れないんじゃないか、それぐらい久世の心に深く根付いてしまっている、それ。

「こーして粘膜同士接触することで、ある能力を使う事が出来る」

言いながら久世のウシロにたっぷりと濡らした指を這わせ、軽く解すようにして掻き回してやれば、違和感に顔を顰ませながらも、懸命に息を吐いてそれに耐えている。

「……アぁ…っ!」

ゆっくりと時間をかけて解してやれば、そこはやがて久世のイイトコロを掠めたらしい、背中をしならせながら久世は蕩け切った顔で後ろの快楽を拾っていた。

「、…ァ」
「つまり、ま。セックスだ、な」

解れた後孔に熱を持ったそれを宛てがって、ゆっくりと挿し入れる。
腸内を圧迫されるはじめての感覚に、久世はただ耐えるように目を瞑っていて。
重ね合わせた手が震えている事に気付いて、強く強く握り返してやれば、それだけのことが堪らない幸福だとでも言うかのように、ふにゃりと笑みを零した。

『愛している』

少しして、久世の体が熱量に慣れた頃、ゆっくりと律動を始めながら、久世の心へとセンディングを送り込んでいく。何度も、何度も。夢の中で囁いた、あの言葉を。

『もう、お前は俺のものだ』

ローディング、のような症状に、久世は驚いたようにあたりを見渡したが、やがてそれがローディングとは違う、しかしよく聞き覚えのものだということに気付いて。

「愛してる」

もう一度、今度は自分の口からそう紡いでやれば、久世はすべての事に合点がいったようで、すごく幸せそうな、けれど何処か歪な笑みを浮かべながら、そうして本当の意味で俺のすべてを受け入れたのだった。