モブ+アル主

※アル主+モブ。エロ的な意味の18禁じゃない。蓋を開ければただのバッドエンドだった。

「………ッ」

目が覚めて、頭が鈍く霧がかったかのような違和感を感じ、万里は内心で舌打ちを打つ。
幼少の頃、何度も体験した感覚。どれだけ耐性をつけても、どうしても苦手意識を感じざるを得なかったそれ。

――油断を、していた。
自分を守る力を手に入れ、傍にどれだけSPを控えさせていたって、”誘拐”がゼロだという可能性など有り得る筈が無いのだ。
三宮グループとなれば、今や世界を動かす程の力を持っていて、それを狙う輩は五万といる。
それを解っていた万里は当然警戒を怠っていなかったし、自身の立場を理解していた為無茶を行うことは極力避けていた。避けていたというのに、何故こんなことになったのか。

「……クソ」

悪態を吐きながら、背中で両手首をギチギチに縛られた手錠を外そうと身体を揺らしても、当然そう簡単に抜ける筈がない。
視界を塞がれた万里には現状を把握出来るだけの情報を得られるはずもなく、ただ冷たい床に身体を転がされ、拘束されているという状況だけが、万里にとっての真実であった。

幼少の頃から危険に晒されて来た万里にしてみれば、それこそ自身を守るだけの力がない当時では日常茶飯事に近いぐらいに、似たような経験をして来ている。またか、という辟易の念にすら駆られるほどに。

落ち着き払った様子で瞳を閉じ、思案の沈む万里に、じりじりと足音が近づいて来るのに気付き、警戒に身を固くすれば、足音の主はくすりと笑みを零して万里の頬に手を寄せた。

「………。」
「…ッ、俺に、触るな…」

他人に触れられる嫌悪に万里は吠えるが、声の主はそんな万里の抵抗など気にも留めずに、頬から首筋、肩へと手を滑らせていく。
体温が感じられるほど近い距離にいるその存在に、万里は嫌悪で顔を歪ませる。耳元に近づく存在に、悪寒すら覚えた。

「…ようやく御目覚めですか、maître(ご主人様)」

というのに囁かれたのは、そんな言葉。そしてその声に、万里は酷く聞き覚えがあった。
低過ぎず、高過ぎず、耳に馴染む流暢な喋り。ずっと聞いていたいと思わせるような不思議な魅力を持つ、声色。

「……は、これはあまりにも…悪ふざけが過ぎるんじゃないか――アルバート」

たちの悪い悪戯だと知り、警戒で強張っていた万里の肩からはどっと力が抜けた。
お仕置きをしてやらねばならないと、声に怒りを含ませた万里にもアルバートは動じず、ただくすりと笑みを零すだけで。

「おい、いい加減茶番は止めて目隠しを取れ。手錠もだ。早くしろ」

床に転がされているというのに、飽くまで強気な態度を崩さない万里を、アルバートはなんの感情も籠っていない瞳で見下ろし、そのままそのしなやかな肢体に片足を落とし、足蹴にした。

「…ぐ…ッ」

遠慮のない一撃に思わず呻いて身体を丸めて痛みに耐えるしか出来ないでいる万里に、アルバートはそっと近寄り、その艶やかな髪の毛を掴んで、顔を持ち上げさせると、恍惚の表情を浮かべながらこう囁いた。

「権力は、なにも貴方だけの専売特許ではありませんよ…ムッシュー万里」

セシルの力は、三宮グループと匹敵するほどの力を持つ事は、もちろん万里は正しく理解していた。
アルバートが物腰の柔らかい表面とは裏腹に、その裏側はひどく歪んでいて、自分と似た者同士であることは、きっと誰よりも万里がよくわかっている。
――同族嫌悪。自分に似たその存在を、万里はひどく厄介なものだと警戒していたのだから。

アルバートの夜ばいによって関係を持ってから、こうしてアルバートが万里を食らおうと仕掛けて来た事は少なくない。その度に万里はそれをうまい具合に躱してきた、はずだった。少なくとも万里はそのつもりだ。…すべて、アルバートが万里を油断させる為のものだったとも、知らないで、すっかりと油断して相手に隙を作ったのは、万里の方だった。

父親が捨てた屋敷で共に過ごしていく内に、情が芽生え気を許していたのだろうか?執事を侍らしていても、その心の奥底までは誰にも立ち入らせなかった万里が、無意識で、執事達に心を許していたのか?
しかし、その問いかけは無意味なものだ。だって、きっと万里本人ですら、その答えを持っていない。

万里本が真っ正面から圧倒的な”力”を持って相手の身心をねじ伏せる獅子だとしたら、アルバートのやり方はまるで真綿で首を締めるような、外堀から埋めて気付いたら逃げ場を失っていたと、そういうやり方だ。
ネズミを愉しみながらいたぶり殺す猫のように、非情で残忍で、何処までも無邪気に。ゲームのように人を陥れる。まるで蛇のように狡猾。

それが悪だとも思わずに。一種の快楽主義者のくせに、ひどく理性的。

背反するふたつはその実、表裏一体。相容れないから嫌悪し、ひどく似ているから惹かれ合う。それが、万里とアルバートの関係。

「ああ、思った通り。あなたの白い肌に赤は良く生える…」

アルバートは自分が蹴った箇所を服をめくり上げ、覗き込む。痛みに喘ぐ万里を見て、また恍惚の笑みを漏らした。

アルバートは美しいものを愛していた。
漫画家という芸術に携わるものである事も、美しさに惹かれる一つの要因かもしれない。

「カワイソウなお坊ちゃん」

侮蔑の笑みを零し、万里の視界を奪っていた布を取り払う。

アルバートは万里のすべてを美しいと思っていたが、その中でも一等、万里が繕っていたものが剥がれ落ちる一瞬に魅せるその瞳の奥底に浮かぶ奈落のような暗い感情を、愛おしく感じていた。

「貴方は本当に美しい。その整った造形に様々な色が浮かぶ時、私は歓喜に身震いすら覚えます」

目隠しを取り払った途端、アルバートに向けられるまるで本物の如く鋭く研ぎすまされた視線のナイフ。
殺気すら籠ったその視線に、アルバートはぞくぞくと身体の内側から沸く、悪寒とは明らかに違うなにかに、身体を震わせた。
身体を拘束され、床に寝転んでいて尚その気高さを忘れない。圧倒的な王者的存在である万里に、それを制圧する快楽。

「相変わらず気味が悪いくらい酔狂なやつだ」

皮肉っぽく笑う万里に、アルバートは場違いなほど柔らかな笑みを浮かべ、小首をかしげるだけで何も答えはしなかった。

「………、」
「…気付きました?」

なにかに気付きキッと睨みつけてくる万里に、脅える様子もなくアルバートはふふふ、と軽やかな笑みを浮かべる。

万里が眠っている間に、アルバートは万里にとある薬を含ませた。大抵の薬に耐性を持っているであろう万里であっても、発症を免れないであろうモノ。――色々なことがあり過ぎた今となっては懐かしさすら感じる、Sexual-CatVirus。
かつて執事たちを苦しめた、盛りのついた猫化する、あのウイルスである。

「それだけじゃ、ありませんよ?この薬は…独自に改良を加えたもの……その効能は、桁違いです」

いっそ死という解放を求めるくらいに、狂わせて差し上げましょう…愛しの、ご主人様――。

「……、ふ…にゃ…ぁ」

無理矢理身体を昂らされ、拘束されたカラダが塞いて、止められた熱を吐き出したいと悲鳴をあげる。
目の前で椅子に腰掛け、優雅に足を組み笑う彼に縋るには、自分の中の山ほどに高いプライドが邪魔をして、堪え抜くにはあまりにその熱は熱過ぎた。

「イイ恰好だ…」
「はっ…く、そやろ…」

悪態をついてみても、身ぐるみを剥がされいつもは自分が操っている側の遠隔操作のリモコンを植え付けられ喘ぐ自分は、酷く滑稽なのだろう。

「……おやおや、まだ楯突くなんて…懲らしめが足りませんでしたかね?」
「ひッ…ぁ」

奴―アルバートはわざと芝居がかった物言いで首を振ると手にしていたリモコンで、万里に埋め込まれていた装置の威力を強めた。

「……う、ぁ…て、め…!ぅ…ン」

アルバートの手により、すっかりと後ろの快楽を植え付けられたカラダは、玩具の与える刺激によってカラダは熱を持ってしまい、両手を縛り上げられ、強請るしか出来ない現状に、歯軋りを鳴らす。
自然と涙の膜が張る目でアルバートを睨みつけても、奴はただ、愉快そうに笑うのみで。

「ぁ…ほん、と…おまえ…っ、性根腐、ってんな…っ」
「お褒め頂き光栄ですよ」

どれだけ罵声を浴びせようが、アルバートは自分に噛みつくその光景がひどく愉快らしく、意地の悪い笑みを浮かべるのみ。
一方的に与えられる熱に、強制的に塞き止められているカラダが悲鳴をあげる。欲を吐き出したい、と。

「…さあ、もっともっとそのかわいらしい姿を私に見せてください」

普段はもう少し理性的な万里も、ウイルスの力には敵わない。
これ以上醜態を晒したくないと必死で繕おうとする理性すら、既に、普段の何倍も、何十倍もに降り掛かって来る快楽の波に飲み込まれようとしていた。

「……く、そ…ッ!」

ハリボテのプライドが、虚勢が、いつ崩れてもおかしくない状態だった。狂おしいほどの快楽に、敏感過ぎるからだが耐えきれるはずもなく。
みっともなく床に這いつくばって喘ぐ自身を、目の前の男は涼しげな表情のまま、見下ろす。たまらず縋るように見上げれば、その顔には、慈愛すら感じる笑みを浮かべていて。

「…も、…アル、バート……ッ!」
「なんです?」
「……くるし…ッ…にゃ…ぁ」

自分の口から、自然と漏れる甘えるような嬌声まじりの声。懇願に似たソレに、アルバートは動かない。

「…それで、私にどうしろと?」

飽くまで万里に言わせたいのだろう。万里から乞うことで、その力関係は明らかとなる。アルバートは万里を完膚なきまでに屈服させたいのだ。自分の立場を思い知らせ、完全に存在を制したい。
その感情は、自身の弟に抱く歪なものに、似ていた。あいしているからこそ、愛おしいからこそ痛めつけたい。傷ついた姿を見て、自分に縋らせたい。
そんな、狂気すら感じるほどの、強い感情。けれどそれは、愛情とは少しだけ違う、ものだった。

「……お、まえ…が…」
「……万里、私は…素直なイイ子が、好きですよ」
「……ッ」

子供を諭すように優しく告げるそれは、その実アルバートからの、最終警告だ。
聡い万里は勿論それに気付いただろう、ハっと目を開き、それから少しだけ唇を噛み締め俯くと、ゆっくりと顔を上げ、口を開いた。

「あんた…が、…欲しい」

そう、それは正しく…万里がアルバートの手に落ちた、瞬間だった。

※ ※ ※

「ふ、ぁ…あッ」

入れ替わり立ち代わり身体を揺さぶられ、万里はすっかりと男のかたちと覚えた其処を無意識に締め付ける。

「ふ、…ああ、まさか三宮の坊ちゃんとヤれる機会があるなんて…」
「この可憐な口に、俺のが出入りしてるなんて…実際に見ててもまるで夢のようだぜ…」

そう、万里の身体を蹂躙しているのは、アルバートではなく、名も知らぬ男達だ。否、確かに万里はその男達を、知っていた。

万里が三宮を此処まで大きくする為に、踏みにじって来た人間たち。そのちっぽけな存在を蹴落とし、財を手にして来た。会社を育てるという事は、そういうことだ。なにも万里が悪いわけではない。男たちも、わかっている。
わかっているけれど、遣る瀬ない。恨んでいた。憎んですらいた。

――そんな彼らに、いつからアルバートが目を付け、声をかけていたのかは、万里は知る由のない。否、今の万里にして見れば、そんな些細なことはどうだって良いのだ。

今この時が、万里のすべて。
入れ替わり立ち代わり万里を男達が汚して行き、そんな様子をただアルバートはなにをするでもなく眺めているだけ。

そうして誰のとも解らぬ体液で汚れきった万里の身体の隅々を綺麗にし、そして最後に、自分のモノだと知らしめるように身体を暴き、まるで泥のように眠る万里を抱き締め、共に眠りにつく。

そんな日々が、一体どれだけの間続いただろう。

「アルバート…はや、く…ほし…ッ」

感染から二週間ほど経過すれば完治されると言われていたはずのウイルスは、アルバートにより、永遠の発症の薬へと変化させられていた。
今の万里はもはや、肉欲に狂う憐憫で愛らしいアルバートの猫でしかないのだ。

「ふふ、そんなに急かさなくても…今日は私だけ、ゆっくり愛してあげましょう」

自分から恥ずかしげもなく足を開き、既にグズグズに解れた其処をアルバートに見せつけるように舌なめずりをする万里に、アルバートは獰猛な野獣のような目を向けながら、そう窘める。

「…アルバート、だけ?」

その言葉に万里は少しだけ残念そうな、けれど何処か嬉しそうな顔をして、アルバートの腰に足を絡ませ、自分の方に身体を引き寄せた。

「ええ、私だけです。不満ですか?」

アルバートの既に昂ったものが、ズボン越しに万里のものに触れる。既にみっともなく涎を垂らしたそこは、パクパクとだらしなく口を開閉させて刺激を今か今かと待ちわびていて。

「……うれしい」

アルバートのモノを食いちぎってしまいそうなくらいに締め付けながら、美味しそうにアルバートの指をフェラさながらに頬張る万里を見下ろし、その頭を撫でながらアルバートは口元を微かにつり上げる。

ウイルスに感染した万里は、前以上に本能に忠実で、そしてアルバートにより粉々に砕かれたプライドと、狂いかけた(若しくはもうとっくに狂いきっているのかもしれない)万里の、頽廃的な瞳は、アルバートが最も魅力に感じていた万里の魅力を更に引き立てた。
ひとつボタンが掛け違えば崩れてしまいそうな、危うげな雰囲気を放つ万里。

「………とても、美しいですよ」

何度も万里に投げかけた言葉を、再び投げかければ、万里は感情の見えない瞳を細め、わらったのだった。

美しい獣。

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(出)リモコン(求)アル主小説という取引で5000文字以上のものという指定はやり遂げましたよ、にゃんくるさん!え、なに内容?いや、アル主である事と、モブが登場する以外は指定受けなかったもーん←
いや、ごめんなさい。まさか自分もこんなものが出来上がるなんて思わなかったんだ。びっくりした。
なんだこの駄文は(;´・3・`)