主十

最近、ふと気付けばアイツの事を見ている自分がいることに気付いた。気付きたくなかった。気付かなければ良かった。
けれどアイツが誰かといる度、誰かを部屋に連れ込んでいる時、決まって訪れる胸の痛みに気付けないほど俺は鈍感ではなく。

「―――みつ、」

遠くに、見慣れた後ろ姿を見つけて。視界にアイツの存在を認めた途端、少しだけ頬が緩んでいたことに幸か不幸か俺は自分自身気が付いていなかった。
けれど――三宮、と声を掛ける前、ひどく嬉しそうな顔をしてアイツに駆け寄り寄り添う御園。三宮も三宮で鬱陶しそうな顔をしているものの、払い退けることはしない。

「……」

三宮の何処がいいのか。俺らが話しかけたとしても一切その表情を変える事をしない御園が、ただひとり三宮にだけは蕩けきったような恍惚の表情を向けるのだ。いっそ、狂気染みているほどの蕩けた笑みを。
三宮も三宮で、面倒臭そうにため息を吐きながらも、撫でるというには些か乱暴な手つきでぽんぽんと数回頭を撫でてやれば、御園は嬉しそうにぱあっと表情を明るくさせた。
自分を慕う御園を邪険に出来ないのだろうか。と、其処まで考えて、まさか三宮はそんなタマではないと苦笑いを零した。一瞬でもアイツにそう言った心があるなんて、勘違いにも程がある。きっと、どうかしていたのだ。

ぼんやりとそんな二人を眺めていると、三宮が腰を屈めて御園になにか囁いている光景が目に入る。楽しそうな、笑みを浮かべて。

「…………ッ」

吐き気が、した。ドンと頭を鈍器で殴られたかのような激しい衝撃を覚え、居ても立ってもいられなくなった俺はそのまま逃げるように踵を返し、駆け出した。
俺がどう思おうと、三宮にはなんの関係もないというのに、なんとも思われないというのに。

その光景が見たくなかったと、ただそれだけの理由で――。

好きにならなければ、良かった。そうすればこんな想いすることもなかった。こんなに、苦しむことなかったのに。
あんなに酷いことをされても好意を抱いてしまった自分をバカじゃないかと思う。こんなの、痛いだけだ。こんな一方的な、叶う筈のない恋心。

けれど、なくしてしまうにはもうこの想いは育ち過ぎていて、蓋をしてしまうには、三宮は俺に期待を持たせ過ぎた。…きっとこの悩みも、アイツの思う壷なんだろうと思うと酷く苛立たしい。

ああ、でも。一番苛立たしいのはそんな酷い男だと知っていても、この想いを捨てる事の出来ない自分の甘さだ。

♂ ♂ ♂

――最近、十条の様子が可笑しい。
何度部屋に呼び寄せて押し倒しても、なかなか口を割らない十条にならば暫く環境を変えようと、以前十条を連れて行った離れ屋にまた連れて行くと言うと、十条はあからさまに嫌そうに顔を歪ませた。

「なんだ、なにか文句でもあるのか?」

お前は文句を言える立場の人間なのか、という意味合いを暗に含めて十条を見遣れば、十条は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべ、小さく俯く。

「返事は」
「……くっ、…な、い…です」
「…ふん。まあ安心しろ」
「なにがだよ…」
「この前みたいなことを期待しているのだろう?きちんと応えてやるよ」

くつくつと喉を鳴らしながらそう言えば、十条は白い頬をサっと赤く染めて怒ったように目を釣り上げるが、散々俺に噛み付き痛い目を見ている十条は、悔しそうな顔をしただけで反抗をする気は更々ないようだ。
此処でもう一押しすれば案外短気な十条は簡単に引っかかってくれるだろうが、いつも怒らしてばかりでは芸がないからな…。

「十条、」
「……っ!?っな…に、を」

まるで毛を逆立て威嚇する猫のような十条の腕を引き寄せ、案外指触りの良いその黒髪を撫でてやれば、十条は困惑しきった様子で俺を見遣った。

「黙ってろ」
「…ン、」

そう言いながら言葉を封じるように唇を奪えば、甘やかされることに慣れていない十条は微かに頬を赤らめて、それからゆっくりと目を閉じたのだった。

――離れ屋にて。
とある一室へと十条を連れ込むと、そのまま性急に掻き抱くように抱き寄せた。

「……み、三宮…?」
「ふ、どうした…?そんなに狼狽えて…」

首筋に唇を寄せ、強く吸うと散々慣らし尽くした十条の身体は敏感に反応し、ビクンと震えて。
そのまま後頭部に手を添え、ゆっくりと後ろに押し倒すと十条は観念したように瞳を閉じ、俺の首に自らの腕を回して甘えるように鼻を擦り付ける。

「どうした、今日は随分と甘えん坊なんだな?」
「どうせ抵抗してもヤられんなら、素直に応じた方がマシなだけだ」

自分から甘えて来たくせに今更恥ずかしいのだろう。十条は白い頬を赤らめ、睫毛を伏せてぼそりと悪態を吐くようにして呟いた。

「……ははっ、随分と殊勝な心がけじゃないか」

ふっと口許に笑みをつくりながら十条の汗ばんで張り付いた前髪を払ってやれば、十条は目を見開いて俺を見上げている。
そんな十条にまたくっと喉を鳴らし、剥き出しになった額に唇を寄せて、そろりとシャツの隙き間から手を侵入させたのだった――。

「ふ…っ、ぁ…ンっ、あぁ…っ」

白い肌を紅潮させ、控えめに主張する充血しきった突起を指で弾くようにして虐めてやる。
俺とこういう関係になってから敏感になったそこは、既に十条の立派な性感帯と化していて、すこし虐めてやるだけで直ぐに鼻にかかったような甘い声を漏らす始末だ。

「ふ、…そんなに良いのか?自分から腰を押しつけて、厭らしい男になったモンだなあ、十条?」
「―――~~ッあん、たが…!」
「俺が、なんだよ」

恐らく十条の目から見れば、俺はさぞにやにやと意地の悪い笑みを浮かべていることだろう。
快楽と羞恥から潤んだ瞳で、キッと俺を睨みつける十条に、それじゃあ逆効果だ、と笑いながらわなわなと戦慄く唇に噛みつくように口付けた。

「…ンっ」

途端に怒ったようにつり上がっていた瞳は、トロンと蕩けたそれに変わり。無意識だろう、もっと、と自ら強請るように俺の首に回した腕に力を込める始末だ。

「いつもこうして甘えてくりゃ、可愛いのにな」

ぼそりと呟いた言葉に、十条はビクンと身体を震わせ、それから何を勘違いしたのか眉を潜ませ「悪かったな」と機嫌悪そうに吐き捨てた。

「なんだ、拗ねてるのか?かわいいヤツだ」
「ば…っ、そんな訳あるか」
「……ふぅん?素直なヤツの方が俺は好きだけどなあ?」
「…………っ、知らねえよ」

知らねえよ、と言ってそっぽを向きつつ、好き、という言葉に反応に一瞬ビクンと肩が震えたことにもちろんこの俺が気付かない筈がなく。
そっぽを向いたことに寄り剥き出しになった無防備な耳に、ぬぷりと舌を捩じ込ませ耳朶を甘噛みする。
そうすれば十条はビクンビクンと身体を震わせ、小さく断続的な甘い声を漏らすのだ。

「……くく、そーそ。素直になった方が身のためだぞ」
「は…ぅ…っ、み、耳元で…しゃべるな…っ」

耳を攻められ、たまらないと言った様子で身悶える十条に、更なる悪戯心が芽生え、耳を攻めたままに先ほど中途半端に熱を持たせた突起に手を這わせる。と、ビクンと大袈裟なくらいに跳ねる十条の身体。

「ひッ…!…や、め…ッ」
「残念ながら、やめろって言われてやめるほど素直じゃないんでね」
「こ…ん、な…っ、いつもと…かわらな…っ」

イヤイヤと首を振りながら、十条は俺から逃げるように身じろいで。

「……なんだ、特別なことをしたかったのか?」
「―――ッ、ちが」
「いいのか?今日の俺は機嫌がいい。今ならお前の言う通りにしてやらなくもないぞ」

囁いた俺の言葉に、十条の瞳が一瞬だけ輝いた。ような気がした。

「――――――で、これがお前のしたかったことなのか」
「……別に、お前と花火がしたかった訳じゃねえけど、たまたま知り合いが大量に余らしたとかで贈って来たんだよ」

オーソドックスな手持ち花火を片手に、同じように花火を持ちながらいつもの顰め面よりも幾分か表情の柔らかい十条の方をジッと見つめる。
ぱちぱちと弾ける花火を口許を緩ませ眺めていたが、少しして俺の視線に気付いたのだろう。不思議そうな表情を浮かべながらこちらを向き、それからハッとしたように唇を尖らせた。アブねえだろうが。目ぇ離すなよ、だなんて憎まれ口を叩きながら。

「…それこそ、俺じゃなく他に喜びそうな人種がいるだろうに」
「………全員でするには、足りねえだろ」
「ふ。……とりあえずはそういう事にしておいてやるよ」

ジッと花火を見つめながらそう言った十条は、暗闇の中でもわかるくらいに耳まで真っ赤に染まっていて。
追求して、本音を吐かせるのは簡単だった。いつものようになし崩しにしてしまえばいいのだから。

けれどそれでは、今のような十条の柔らかな笑みが失われてしまうような気がして、たまにはこんな無意味な時間を過ごすのも悪くないとそんな甘い事を考えてしまう。結局のところ、俺はコイツに甘いのだ。きっと自分が思うよりも、ものすごく。

「おい十条」
「…なんだよ?」

名前を呼べば、十条は怪訝な顔をしながらこちらに首だけを向ける。いつもより幾分か幼い、無防備な表情。
きっとこれが出資者と経営者というしがらみを取り払った、十条という男の本来の表情なのだろう。

十条の持っていた手持ち花火が、消える。それから少しして、俺の持つ花火も消えてしまって。

「あ」

それに気付いた十条が残念そうに目線だけを花火に向けたその瞬間。

「………ッ…!?」

薄く開いた十条の唇に、自らのものを重ね合わせ触れるだけのバードキス。いつものものよりも軽いはずのそれに、十条は目を大きく見開いて頬を赤らめた。

「……え、…な…なに…?」
「なにって、キス」

どうして突然、とでも言いたげな瞳はうろうろと行ったり来たりして忙しなく。平然と返す俺に、十条はなにを思ったのか眉を顰めた。

「気付けよ、バーカ」

これだけ特別扱いをしてやってるのに気付かない鈍さとか、期待するくせに叶う筈がないとはなっから諦めているところとか。

「は…!?馬鹿とか、さっきから突然…」

不機嫌そうに目を釣り上げて、十条は相変わらずの喧嘩腰だ。…お前がそーだから、いつも同じ結果になるって、なんでわかんねーかね。

分からず屋の十条の顎を掴むと、そのままさっきのものよりか幾分も深く深く噛みつくようなキスをして。

「イチイチ無意味なこと悩んでばっかいねーで、お前は俺だけを見てれば良いってことだよ」

極めつけに不敵な笑みを浮かべながらそう耳元で囁いてやれば、十条は顔をリンゴみたいに真っ赤に染めて、なにも言わずに俺の肩に顔を埋めたのだった。

愁さん、遅くなりまして本当にすみませんでしたあああ!!!これリクに沿えてる?え、そ、沿えてない?
十条さんのキャラがホントに迷子で…申し訳ない。好きキャラとそれっぽく書けるキャラってイコールで繋がらないよね!くそう!

こんなのじゃない!もう一回書き直して!等あれば本当に遠慮なく言ってください。もうマッハでなおす。

最後に、いつもお相手ありがとうございますー!これからもよろしくね!