主倉

コンコン。

「ご主人様、僕…倉科です」
「ああ、入れ」

その言葉と共に入って来た倉科は、無邪気な笑みを浮かべながら一礼した。

「橘さんにご主人様が僕を呼んでるって聞いて…それで、なんのご用ですか?」
「ん、ああ――いや…少し離れにいかないか」
「離れって………もしかして、あの…」

倉科は離れという単語に、三日月との出来事を思い出したのか頬を赤らめたが、それと同時に俺が「離れは一人になりたい時に行く」という言葉を思い出し、気遣うような表情を浮かべた。

「…あ、俺……その、僕が行ったら、お邪魔になるんじゃ…」
「俺が倉科を連れて行きたいと言っているんだから、邪魔になる訳がないだろう。…それとも、嫌なのか?」
「ち、ちが!…嫌とか、僕…そんな…つもりじゃないです…っ」

窺うように問いかける倉科に、ふっと笑みを零す。背丈の関係で自然と上目遣いになる倉科。そんな倉科の頭を撫でながら、少し寂しそうな表情を作れば、人を疑うことを知らない倉科は案の定あわあわとしながら勢い良く首を振って否定した。

「ふ、冗談だ。」

疑う心を知らない無垢さは、両親に愛されて育った紛う事なき証で。
そのまっさらで無垢な心に、でたらめな嘘を教え込んでいくことが、愉しくて仕方がない。…これじゃ、俺も高山のことを馬鹿には出来ないな…。

「僕は何処でもお供しますよ!」

その太陽みたいな笑顔が、少しだけ羨ましくも憎らしくもあった。

「ふっ、何処ぞの奴らと被るような事を言うな」

――最も、それ以上に湧いたのは、愛おしいという感情だけれども。

「ふぁあ…相変わらず大きいですねー…」
「口が開いているぞ、だらしない」

首が痛くなるほどの離れを見上げ、あんぐりと口を開ける倉科。…なにも此処に来るのは初めてではないというのに、おかしな奴だ。

「…ふぁ!!…恥ずかしいです…」

自分でも無意識だったのだろう。俺の指摘に倉科は慌てて自分の開いた口を隠すように両手で覆う。

「…とりあえず、こんなところで立ち往生していても仕方ないだろう。入るぞ」
「あ、はいっ」
「……。」
「えへへ、ありがとうございますっ」

歩き出せば駆け足でついて来る倉科。それとなく歩調を合わせてやれば、嬉しそうに笑う。

「礼を言われる覚えはないが?」
「僕が言いたかっただけだから、良いんです。えへへ」
「……おかしな奴だな」

きっと漫画やアニメの類いのものならば、今頃倉科の周りでは花が飛んでいるに違いない。それくらい嬉しそうな笑顔だった。
そんな倉科がおかしくて、何故だか妙にくすぐったくて笑みを零せば、それすら嬉しい事だと言うかのように、また笑う。…本当にコイツと居ると、調子が狂う。

一室に入ると、倉科は辺りをきょろきょろと見渡し、ほうっと感嘆のため息を吐いた。
そうだな、この部屋は倉科の実家である旅館とどことなく雰囲気が似ていて、きっと安心するのだろう。倉科の表情はすっかりと緩んでリラックスしているようだ。

「………倉科」
「なんですか?」
「……ありがとう」
「?…はい!」

意味も解らずに頷く倉科。献身的な性格と、天性のものだろう、決して触れられたくない領域には踏み込まないその姿勢に、安堵する。そして安心、させられる。

「…え、あ…」

自分より小さなその存在に、こんなにも癒されてるだなんて。助けられるだなんて。――救われるだなんて。
思わず自分に寄りそうその身体を抱き寄せれば、倉科は少しだけ困惑したような、照れたような様子だったが、抵抗する様子はなかった。

「あ、の…?」

抱き寄せた倉科を壁に押しつけてみるが、その表情からは危機感というものが一切感じられない。
――何処までも無垢な存在だ。俺や高山がちょっかいをかけてなお、”そういうコト”をわかっていないのかもしれない。

「なにするんですか?」
「イイコト」
「いいこと?」

耳元で囁きながら倉科を押し倒すが、首を傾げるだけ。――これでもまだ解らないようなら、どうなるか教えてあげるしかないな。

口元を吊り上げ笑う俺を、倉科は無垢な眸で見上げるのみで、抵抗の色は一切感じられない。

「ひゃ!?きゅ、急になにを……!」
「俺を癒してくれるんだろう?」
「え?…あ…で、でも…こんな…っ」

倉科の耳にキスをし、軽く甘噛みするように歯を立てれば、倉科はびくんと身体を震わせて顔を真っ赤にしている。この状況と自分の身体の変化に戸惑っているのだろう。

「ふ、どうした?こういう遊びは慣れているだろう?」
「…っひ、ぁ…ンん…っ」

突然の刺激に思わず、だろう。俺の首に縋り付くように腕を回す倉科。それを良しとして倉科の身体に手を這わせれば、倉科はぴくんと身体を震わせた。まるで打ち上げられた魚のようにぴくぴくと身体を震わせる倉科に、意地悪な笑みを浮かべながらその耳元で囁いてやれば、倉科は生理的な涙を浮かべながら嫌々と首を振る。

「や、だ…ぁ…僕、なんか…変です…っ」
「ふん?だがお前の身体は嫌だとは思っていないようだがな」

まだ幼い其処は、しっかりと反応を示していて。
ズボンにテントと張るようにして存在を主張するそれを足で軽く擦ってやれば、幼いそれはそんな薄い刺激すら強いもののようで、倉科は腰をゆるゆると揺らしながら俺に縋り付いた。

「……ごしゅじ、さま…ぁあ…だ、め…!おし、っこ…漏れちゃう…!」
「………。漏らせばいい」
「だ、め…触ったら、も…―――ぁあっ!!」

ぷしゃっと勢い良く放たれるそれは、紛う事なく白濁の、快楽の証で。――この歳になってまだ射精を尿意と勘違いしているとは、本当に箱庭育ちだったんだろうな。
今よりも数段幼い、幼気な倉科に嬉々として悪戯をするあの変態の姿が容易に想像出来た。今みたいに、倉科は相手を無意識に煽るようなことを口にして、高山はそんな倉科にひどく興奮を覚えていたに違いない。

「は、ぁ…は…ご主人様…ひ、ど…い僕、駄目だって…言ったのに」

そういえば、いつだったか夢精のことも小便と勘違いしていたことがあったか。あの時は面白そうだと思って朝比奈のところに行くように差し向けてみたが。

「悪かったな。」
「……ん、うぅ…ぼ、く……」

自分の出したものを視線に入れないよう顔を隠す倉科の頭をぽんぽんと撫で、大丈夫だと笑うと、倉科は目を潤ませながら俺に抱きついてきた。

「この、歳で…こんな…はずかしい、のに…」
「ふ、興奮したんだな」
「んっ、ぁ…あっ!」

倉科の若い身体は、一度だけの吐精では満足出来なかったのだろう。それとも、背徳の快楽に興奮したのか、小さいながらに確かに屹立していた。

「……だ、だめ…っ」

今度は手でそれを扱いてやれば、倉科はぴくんと身体を大袈裟なくらいに震わせながら快楽に耐える。…倉科からおぞましい記憶を取り除くよう必死だっただろう両親。倉科はなにも知らないままに、その身体だけはすっかりと快楽の味を知っている。

「ふ、駄目…だなんてどの口が言うのか」

だからこそ、余計に人一倍快楽には弱い。

――ただ夢見が悪かっただけ。大した何かがあった訳でもない。
けれど、こうして倉科と触れ合っている今だけは…複雑に絡み合ったしがらみも、なにもかもを忘れられそうで。

「ご、主人様…も、やめ…」

快楽に顔を蕩けさせ無意識に自分からそれを俺に擦り付けていながらも、一向に素直にならない口を無理やりに奪うように口付けて、俺は倉科を再び快楽の波へと突き落としていくのだった――。

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倉科くんはあざとかわいい!テロリストなフヅキさんに対抗した結果がこれだよ!!!惨敗したちくせう!!!あざとかわいいフヅキさんだいすき!ぎゅ!