主東

「へ?呼び出し、ですか」
「……そうです、こちらは良いのですぐに向かってください」

書類整理の最中、橘に至急執務室に向かうように耳打ちされ、東雲は申し訳ないと思いながらもその仕事を引き継ぐと言ってくれた橘に一礼し、万里の執務室へと向かう。

――一体なんの用事だろう、と考えてもあの人の考える事なんて俺には到底想像もつかないことだ。とすぐに思案を中止した。
…それよりも、一刻も早く執務室に向かった方がいいだろう。あの人は、待つ事が嫌いなひとだから。

「東雲ですけどー」

部屋の前でノックをし、名前を告げると扉の向こうから「入れ」と平淡な口調で招き入れられる。…ああ、どうやら機嫌は悪くないみたいだ。

「ようやく来たか」
「…あ、お待たせして、すみません…そんで、用事って…」

退屈そうに頬杖をつきながら長い脚を組み、一目で高級だと解るソファに腰掛けふんぞり返る万里。
東雲が慌てて頭を下げると、そんなことどうでもいい、と言わんばかりに鼻を鳴らし、ぞんざいに手招きをする万里に、何となくイヤな予感を感じながらも仕方なく近寄ると、にやり、とイヤな予感しかしない笑みを漏らしたと思ったら次の瞬間――。

「舐めろ」
「……は?……な、なに言ってるんすか、ご主人様…」
「ふん、聞こえなかったのか?俺は舐めろ、と言ったんだ、東雲」

舐めろ、と言われて万里に倣ってソレに視線をやれば、間違えなく万里が指しているのは……アレで。
東雲が出来ない、と首を振ると万里は不機嫌そうに鼻を鳴らし、次の瞬間何を思ったか東雲の頭を掴んで無理やり其処に顔を押しつけた。

「なっ…や、やめ…っ」
「いつもやっていることだろう。なにを今更抵抗する必要があるんだ」

いつもとは違う、と反撃しようとして、やめた。墓穴を掘るだけだと気付いたからだ。

「…ほら、はやくファスナーを下ろせ。手は使うなよ」
「………くっ」

――こんな辱めを受けて尚、どうして俺はご主人様に抵抗が出来ないのだろう。男と身体を重ねるなど、昔の俺からしたら到底想像すら出来ないことだった。だというのに、今はこうしてご主人様に求められればイヤだ、と言いながらも結局はその命令に従ってしまう。今だって――。

「…ああ、上手だ。」

東雲は、口だけを使って万里のズボンのファスナーを下ろして、命令されるまでもなく下着の上から自分の舌を使って、万里のモノを慰めているくらいだ。
同性ならではの、弱点を知り尽くしたフェラ。万里は少し腰を浮かせながら、目を細めながら東雲の頭を撫でる。

――あーあ。それが、嬉しくて仕方のない俺はきっと、もうこの関係に、染まっちまってるんだろうなあ。

「……ン、あぁ…巧くなったな、東雲…」
「ン、ちゅ…そ、……っすか…」

いつもの冷静な声とは違う、すこし上擦った声。上気した頬。細めた眸。
下着ではおさまらないソレは、亀頭を覗かせていた。

――俺だって、男なんすよ、ご主人様。

自分の奉仕によって相手がこんなにも気持ちよくなってくれているのを見たら、たまらなくなる。

「……く…、」

東雲の舌が万里のイイトコロを擦る度に、東雲の頭を掴んで腰を揺らす万里。端正な顔が快楽に歪む姿を見ると、堪らなくなった。

「……くく、東雲…俺のを舐めて感じているのか?……腰が引けているぞ」
「ッンぁ…!」

自分でも、信じられなかった。舐めているうちに、自分のものも…触ってもいないのに勃っていた、だなんて。
万里は、東雲のモノを足の指で挟むように愛撫すると、東雲は切なそうな表情を浮かべ、万里を見上げる。

「おい、俺は口を休んでいいとは一言も言っていないが?」
「……っ、そ、…んな…俺、無理っすよ…っ」

万里の足により、東雲のモノがどんどんかたちを変えていく。燕尾服のズボンは既にシミが出来、東雲のモノは苦しそうにズボンを押し上げ存在を主張していた。

「……東雲」
「…う…ぁあ…っ」

無理だ、と首を振る東雲に、万里は飽くまで優しく名前を呼ぶ。それは、まるで毒のようにゆっくりと広がり、東雲の心に染み渡っていく。

「……っ、う…っ」

なにも言わずに指の腹で東雲の頬をなぞる万里。

「何故泣く」

問われるまで、気付けなかった。どうりで目の前が霞んでいるわけだ。

「…し、らな…ン…」
「泣くな」

気遣うような言葉とは裏腹に、万里は乱暴に東雲の頭を押さえつけると、そのまま頭を前後に動かし始める。

「…ふ、ンん…ぐ…っ」

苦しさに眉を顰め、必死に頭を引こうとする東雲だが、万里の手によりしっかりとホールドされていてそれもかなわない。

「う、ぇ…ごほっ…ンん…っ」

東雲が嘔吐いても万里は手の動きを止めることなく、東雲の頭を前後に動かすと、自らもゆっくりと腰を揺らしていく。

「…は、……ン…」
「ご、しゅじ…ぅ、ぐっ」

苦しいと、訴えかけても万里はにやりと厭らしく笑うだけで。東雲には自分が今流している涙が、生理的なものなのかそれ以外の理由のものなのか、もはやわからなかった。

「…ふ、…ンん…はっ」

万里の下着は、もはや下着としての役割を果たしてはおらず、東雲の唾液と自らの我慢汁により、ぐちょぐちょになった下着はうっすらと万里のものが透けてみえる程に濡れそぼっていた。

東雲が、下着からはみ出た先端や、下着に収まったままの睾丸を布の上から食むようにして咥えたりすれば、万里は切なげに眉を顰めながらそれを受ける。

万里に奉仕する東雲の中には、万里が執事たちを御遣いにやる時に愛用しているリモコンが装着されており、東雲は万里のものを舐めながらも時折前立腺への刺激に身体を震わせていた。

「……ふ…ぅン、さっき、まで…嫌だと言っていた奴と同一人物だとは思えないな…ッ」
「ふ、ぁ…ン、ご主人、さま…っ」

――…凶暴なまでの快楽に、頭がおかしくなっちまいそうだ。

女でもないのに尻に入れられ喘ぎながら、自分と同性のものを銜えてだらだらとヨダレを垂らしている自分自身が、時折見たくもないのに視線に入ることに嫌悪感を抱いていながら、東雲はそんな自分の痴態にすら身体をより一層熱くさせていた。

淫乱な身体。そう躾けたのは、今愉快げに自分を見下ろす万里だ。その視線だけで、背中がゾクゾクと震え上がる。圧倒的な存在感に、制圧させたくなる。

「……なんだ、内股をすりあわせて」

きもち、いいのだろうか。微かに掠れた声は強烈な色気をまとい、東雲に襲いかかる。

「欲しいのか」

その言葉に、間髪入れずに頷いてしまいたい衝動に駆られた。それは、東雲のほんの一握りの理性によって、阻止されたけれども。

「なら自分から求めてみろ」

誘うような万里の声。決して大きい音ではないはずなのに、自分の中に埋まったそれの振動音が頭の中でリフレインして、東雲は、気が狂いそうだった。

「……ーーーっ」

たえきれなかった。万里の熱に慣れきった自分の身体は、リモコンなどというオモチャだけでは、足りない。もっともっと、熱いものを求めてしまう。快楽に浸されきった身体は、更に貪欲に、万里の熱を求めていた。

気がつけば、東雲は。

「……―――――あァっ!!!」

自分から誘われるがままに万里の既に意味を成していない下着に手をかけ万里の上に股がると、ゆっくりと腰を落としていた。

頭の中に、身体中に、強烈な刺激が回って。東雲は大きく目を見開いてそのまま身体を弓ならせる。

「…くくっ、挿れた瞬間に達するなんて…やはりお前は相当な変態だな…」

万里に耳元で囁かれ、はじめて自分が達してしまったことに気がついた。
リモコンの隙間から無理やり押し入るような万里の熱量に、更に奥に追いやられたリモコンが東雲の前立腺にダイレクトに刺激を伝えたことに、東雲の散々昂られた身体は耐える事ができなかったのだ。

「…ふ、ぁ…あ…っ」

自分の力では、支えきれないほどの強い刺激に、思わず万里にしなだれかかり、荒く呼吸を繰り返す。

「まさか後ろだけでイくとはな」

クツクツ、と耳元で喉を鳴らす万里。戯れに米神に口付けられ、東雲の擦り切られた理性は、既に限界を超えていた。

「………ンっ!?」
「…ご、しゅじ…さまっ…俺…俺…」

達したばかりでハァハァ、と荒く呼吸を繰り返しながら東雲は、無理やりに万里の唇を奪う。自分の喉に絡み付くねばついた液体が、未だ咥内を犯していて、それの味に万里は思い切り顔をしかめた。

「…チッ、急になにを…ン…っ、おい…東雲…っ」
「俺、もう…限界っす…はぁ…」

東雲の理性は、万里を前にしてだけ強く保つ事が出来ない。無理やり身体をあばかれ、辱めを何度も受けて来たにも関わらず、万里が自らに触れている時を心地よいとすら感じてしまうのだ。

先日の、お風呂しかり今回の奉仕しかり。突然襲われたとしても、きっと東雲は口では文句を垂らしながらも、結局はいつだって従ってしまう自分がいることに気付いていた。

求められることが嬉しい。与えてあげられることが嬉しいのだ。

「…ご主人、さま…俺…あんたのこと」

キスの合間に、言葉を重ねて。東雲は万里のネクタイを荒い、しかし手慣れた手つきで解いていくと、シャツのボタンに手をかけた。
仕立てのいいシャツは、東雲のと万里のもので汚れていて、きっと、万里のことだからこのスーツはもう二度と着ないのだろう。そう考えて勿体ない、と場違いにも思ってしまう自分に、自分らしい、と内心で苦笑いを零す東雲。

「…すき、かもしんない…す」

万里のシャツを脱がせ、滑らかな素肌に手を這わせる。筋肉質な身体。朝比奈さんほどじゃないけれど、このご主人様は身体をよく鍛えている。それもただ筋肉を付けている訳じゃなく、均整な体つきで。
東雲は万里が服を脱ぐ時、いつもこっそり見とれていることは、きっと恥ずかしくて本人には一生言えないことだろう。

「……ふ、なにを今更」

腰の付け根を撫でながら、耳元で囁く。東雲の中で未だに存在を主張している万里の熱を愛おしく感じながら、全身で感じる万里の存在に、東雲は幸福感に酔いしれる。

「お前が俺を好いていることなど、とっくの昔に知っている。」
「…ンっ!」
「お前が俺を好きになることは、最初からわかっていた。」

――何故なら、そう仕向けたのは俺だからな。

万里が得意げに言う言葉が、なんだか少しだけ気に入らなかった。自分の気持ちを、決めつけないで欲しかった。
確かに、導かれていた部分はあるかもしれないけれど。自分の心は自分のものだ。――だから、自分が万里を好きになった気持ちも、自分のものだ。

苛立ちをぶつけるようにして乱暴に万里の舌を甘噛みして、下半身を意識して中でぎゅっと締め付ければ、万里は軽くうなる。

「…ふ…ン、俺に、反抗しようなんて…随分偉くなったな、東雲…」
「俺だって、男なんすよ…だから――」

好きな人の、快楽に耐える姿だって見たいし、気持ちよくなって欲しい。万里に挿れたい、と思ったのは嘘ではないが、其処まで求めているわけじゃない。

「ご主人様の顔、かわいー」

快楽に蕩けきった笑顔で、ドロドロの身体で、東雲はわらう。
紅潮しきった顔で自分を睨みつける万里が可愛くて愛おしくて、東雲はまた、青臭い口付けを万里に贈り、そして――。

「もっともっと俺でキモチヨくなってくださいね、ご主人様…」

万里のすべてを搾り取るように、再び下半身に力を込めたのだった――。

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秘技、サプライズ返し!ということで朗さんの絵みたく泣きながらくわえてるのめさんを書こうとした結果がこれだよ!!!失敗失敗!