主水

「……あんたってさ、変だよな」
「なんだ、薮から棒に。…ああ、もしかして…お仕置きされたいのか?」
「ちがっ」

万里の意地悪めいた笑みに含まれた劣情に気付いた水嶋はカッと顔を赤らめ、即座に否定した。
吐く息も白い師走だというのに、薄くブランケットを羽織っただけの水嶋を後ろから抱き締める万里。
その逞しい腕に抱かれている時間に堪らなく幸福感を覚え、水嶋はほぅっと息を吐くと、幸福に微睡むようにして瞼を閉じる。

「……なあ、なんで俺を選んだんだ」
「――またそれか?」

幾度目になる水嶋の質問に、万里はクツクツと喉を鳴らし、笑う。いつもは自信たっぷりの水嶋も、この男に関してだけは調子が狂ってしまう。つい弱気になってしまうのだ。
万里のまわりの男は、優秀な男ばかりで。自分を卑下する趣味はないが、水嶋から見ても魅力的な男が溢れていた。同性として、負けた、と素直に思えるような男たちが。
そんな男たちの中から、どうして万里は自分を選んだんだろうか。何度その問いかけをしても、水嶋の中の疑問は尽きない。納得ができないからだ。

「………仕方、ないだろ」
「愛しているからだ、と何度言ったら解る」
「……っ、俺…だって…」

――本気で三宮万里を愛しているから。自分のすべてを捧げても良いと思えるくらいに惚れ込んでいるからこそ、不安なのだ。
万里から愛を囁かれる度、幸福感に酔いしれる。熱情のキスを交わす度、身体も心も蕩けきり、万里の前にすべてを委ねてしまう。

「もう黙れよ」
「…ぁ…、」

渋る水嶋にいい加減じれったさを覚えたのか、万里は無理矢理水嶋の顎を掴んで自分の方へと向かせ、唇に噛みつくように口付けた。
そうして咥内を蹂躙するように舌を絡ませながら、素肌に羽織っているだけのブランケットを取り去り、水嶋のほのかに桜色に色づいた白い肌に指を這わせると、水嶋は甘い疼きに身体を身じろがせながら、目尻に生理的な涙を溜める。

「……ん、…ぁ…万里…っ、」
「…ん、…彬……っ」

ぐちゅぐちゅと厭らしい水音が辺りに谺し、万里の手によって強い快楽を受けながら水嶋は万里の腰に腕をまわし甘えるように身体を擦り寄せて。

「……万里…俺…っ」
「…ふ、もうガマン出来ないのか?」

甘えるように名前を呼んで、潤んだ瞳で万里を見上げる水嶋に、万里は意地悪めいた笑みを浮かべながら、自分に擦り寄って来る身体を更に引き寄せたのだった――。

「んぁ…、あ…っ…万里ッ…!」

一面ガラス張りの高層マンションで、水嶋はイルミネーションを装った街路樹を見下ろしながら万里の熱を受ける。最も、水嶋にはイルミネーションを眺める余裕など微塵もないが。

「……ふ…相変わらずお前のナカは…俺好みだな…」
「…ん…っ、あ…うれし…」

冷たいガラスに両手をあて、水嶋は身体を捩らせて万里のキスを受ける。
何度身体を重ねても変わらず万里を締め付ける水嶋の具合の良さに、息を荒く吐いて抽送を繰り返すと、水嶋は応えるように締め付けを強くして。
水嶋の片足を持ち上げて深く深く突き刺すと、水嶋は苦しそうに息を吐いた。そんな水嶋を追い立てるように何度も何度も口付けると、水嶋もそれに応えようと舌を絡ませて来る。

「……万里…っ、俺…もう…ッ」
「……ああ…、思う存分イけ…ッ」

瞳を蕩けさせて、舌を絡ます事すらままならない水嶋の顎にだらしなく伝う涎。自分の足で立つ事もかなわなくなった水嶋はガラスに背中を預けて、万里に抱き締められる、所謂対面立位のような体位を取らされ、その圧迫感にただただ唇を戦慄かせることしか出来ないでいた。

「……っ、あ…ぁあ…っ、万里…っ」

パンパンと無遠慮に腰を打ちつけられ、不安定な体勢にただただ水嶋は万里に縋り付いて喘ぐ事しかできなくて。
自分を易々と抱き上げながら首筋に、肩に、耳に口づけられて水嶋の胸は高鳴ってばかり。自分でもどうしようもないくらいに、この男に溺れていた。

「……そろそろ、か?」
「…ん…ぅ…く…っ、ひぁ…あぁあ――…っ!!」

巧みな腰使いで水嶋の弱い箇所を何度も擦られ、極めつけに万里の腹に水嶋のすっかりと首を擡げたそれを擦り付けられ、堪らず水嶋は万里の腹に欲望を吐き出してしまう。
勢いよく飛び散ったそれは、万里だけでなく水嶋にまで飛び散り、水嶋は荒い呼吸を繰り返しながら、自分の吐き出したものをぼんやりと眺めていた。

「…いっぱい出したな」
「……うっせ」
「ふっ、照れてんのか?可愛いやつだ」
「…ちが…っ、…んぁっ…!」

からかわれて顔をバッと赤く染める水嶋に、追い打ちをかけるように万里は腰の抽送を再開させて。達したばかりで敏感な水嶋は、強過ぎる快楽に嫌々するように、首を振る。
けれど、もちろん万里が止めてくれるはずもなく、水嶋の若い欲望は、またしても首を擡げることになるのだった。

「自分ばっかり満足してるな、俺にも付き合え」
「……ぁ……」
「彬、俺が欲しいだろう?」
「………ん、欲し…い」

限界が近いのか妖艶に目を伏せる万里に魅せられるようにして、水嶋はほうっと表情を蕩けさせた。

「聖夜に相応しく、たっぷりつぎ込んでやるよ――」

そうして暫く水嶋の中を擦っていると、万里の限界もやがて訪れて。ぺろりと舌なめずりをし、より深いところへ突き立て、自らの欲望を吐き出すのだった。

「あ…」

空調の効いた室内では解らなかったが、いつの間にか外では雪が降っていたらしい。

「……ホワイトクリスマスか」
「ああ、…綺麗だな…」

万里が今日の為だけに用意した高層マンションは眺めが良く、街のイルミネーションがよく見える。
ブランケットを羽織っただけの姿でぼんやりと外を眺めていた水嶋の後ろから、水嶋を抱き締めながら万里が同じようにして外を眺め、呟いた。
水嶋はそんな万里に甘えるように背中を預け、ガラスに微かにうつる自分たちの姿に頬を緩ませ、回された万里の腕にぎゅっと抱きつくようにして手を重ね合わせるのだった。

「たまにはこんなクリスマスもいいな」
「………――ああ…」
「万里、俺…来年も同じようにあんたと過ごしたい…な」

意地っ張りな水嶋の、精一杯の一言。
自由奔放で唯我独尊なこの男の、不意に見せる悲しげな表情にどうしようもなく心がキュッと締め付けられて。
水嶋はどうしても”クリスマス”に嫌な思い出を抱いているであろうこの男の、思い出を上書きしてあげたかった。万里の思い出の中に、自分が在りたかった。

「……仕方ねえから空けといてやるよ」
「はっ、相変わらず俺様…」

水嶋の言葉に、万里は驚いたように目を少し見開き、そしていつもの笑顔とは違う、本当に幸せそうな笑顔で、ふわりと笑う。
その笑顔に、水嶋はなんだか泣きたくなって、まるで泣き笑いのように顔をくしゃりとさせて、笑みを返すのだった。

――この男を幸せにするのは自分がいい。この男の隣で幸せになりたい。ずっと、一緒にいたい。

恋人たちの祭典、クリスマス。
水嶋は年甲斐もなく、そうサンタクロースに真剣に願うのだった。

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水嶋があまりに報われなくてね、でも進藤さん相手じゃ水嶋くんを幸せにしてあげられないということで、安定の主水。クリスマスの水嶋の素敵な笑顔はご主人様相手だと思い込んでときめいた私のトキメキを返してくださいトキメキ泥棒め!←
ということで、にゃんくるさんへ捧げますー!いつもお世話になっておりますー!内容に関しては…まあ安定のね…はい。