主アル

――夜更け前、腹に圧迫感を覚え万里は目を覚ます。

視界にうつるのは、金糸のように美しいブロンドの髪、宝石のように煌めく蒼い眸。そして危うげな色気を纏った男―アルバートの姿だった。

「……あんた、なにして…」

万里の寝起き特有の掠れ声に、アルバートはまるで至極の子守唄を聴いているかのような蕩けた表情で応える。

本来の万里ならば、橘以外の人間が傍に寄ろうものなら、直ぐに目が覚めてしまうはずだ。はずだった。
けれども今、アルバートが股がらなければ万里はそのまま目を覚まさずに朝を迎えただろう。
気配に敏感な自分が、全くアルバートの気配を察知することが出来なかった。その事実は、万里のプライドを深く傷つけたのだ。――もしくは、耐性のある自分にすら効力のある強い薬でも盛られた可能性もある。
万里は内心で舌打ちをすると、目を細めて余裕ぶった笑みを浮かべるアルバートを睨みつけた。

「…俺になにをした」
「おお、こわい。私はなにもしていませんよ。…まだ、ね」

苛立ちを隠そうともせずに自らを睨みつける万里に、アルバートは言葉とは裏腹に愉快げに笑いながら、万里の寝巻きの隙間に手を忍ばせていく。

「ふふ、眠る顔もとても美しかったですよ万里…まるでLa Belle au bois dormant(眠り姫)のようだ」
「チッ。俺を襲うとは、相変わらず悪趣味なやつだ…」

滑らかな手つきで寝巻きの前を全てはだけさせ、あらわになった白い肌に、それでも尚自分を睨みつける鋭い眼差しに、アルバートは眩しげに目を細めた。

――ああ、思った通り。万里は何処も彼処も美しい芸術品だ。

アルバートは、この美しい男を、ずっとずっと、欲しかった。自身のお気に入りである丸山とは違った、素直さの欠片もない男。
心の奥底に仄暗いものを抱えたこの男の瞳を見た瞬間から、アルバートは万里に強く惹かれていたのである。

いつもそれとなく躱され味わい損ねていたその身体が、今、惜しげも無くアルバートの前にある。アルバートが興奮するのも、当然であろう。

「あんた、いつもの余裕はどうした?………今のあんた、待てが出来ねえ犬みたいに、随分だらしねえ顔してるぜ」
「……ふふ、あなたは相変わらずですね…。でも、直ぐにその減らず口が叩けないようにしてあげますよ」

万里の鍛え上げられた身体を愛撫するように撫で回し、首筋に吸い付くように唇を寄せて。
アルバートは苦しげに眉をしかめた万里の表情を一瞥し、にたりと笑う。

「ああ――良い顔だ、万里…」

恍惚の表情を浮かべながら、自身もゆっくりと身にまとっていたシャツを脱ぎ捨てていけば、アルバートの万里に負けず劣らぬ白い肌が外気にさらされて。

「……ふふ、気分が…乗って来たみたいですね…」
「…どうせなら楽しむ性分なだけだ」

アルバートの愛撫を受けながら、万里も華奢ながらも程よく鍛え上げられたアルバートの身体へと指を這わしていく。
万里の愛撫を受けほのかに粟立つ肌に舌を這わせると、アルバートもまた、対抗するように万里の胸板を揉むように愛撫し、その中心を甘噛みするように唇で食んだ。

「ああ、興奮しているのですね…」
「あんたも、もう随分キツそうだけど?」

アルバートの尻を押し上げるかのような熱は、紛う事なき興奮の証で。
その証を軽く押し潰すかのように尻を押しつければ、万里は性器への刺激に軽く呻き、その表情に、声に、アルバートはまた欲望をかき立てられて。
万里も対抗するように、アルバートのズボンを押し上げて存在を主張するものに服越しに指を這わせ、愛撫していく。

「…ん、…はぁ…」

興奮しきった身体に直接的な刺激を与えられ、アルバートもまた小さく喘いだ。
そんなアルバートの嬌声に気分を良くした万里は、キッチリと締められたベルトを抜き去りズボンのジッパーを下ろすと、前を寛がせたのだった。

「……ふん、あんなに余裕ぶっていたくせに、もうこんなにトロトロじゃないか」
「…ふ、…万里の可愛い姿を見てつい興奮が抑えられませんでしたからね……」

パンツにじわりと広がるシミの部分を親指でグリグリと押し、アルバートを詰る万里に、アルバートは快楽による生理的な涙の膜を浮かばせながらも、相も変わらず余裕めいた言葉を口にする。
万里は飽くまでもその姿勢を崩さないアルバートに、愉快げに口許を緩ませると、既にその役目を果たしていないアルバートの下着をずらし、すっかりと首を擡げているそれに舌を這わせるのだった。

「……ん…っ、ああ…上手、だ」

万里の頭を掴み、腰を前後するアルバート。
咥内ですっかりと成長しきったそれに手を沿え、物欲しげに開閉する鈴口を舌で抉るように愛撫すれば、アルバートは強い刺激に堪えきれず万里の頭に縋るように抱き寄せて、背中を弓反らせ万里の中に欲望を吐き出したのだった。

「最初の威勢はどうしたんだ?……勝手にイくなんて、悪いやつだな」
「……ふ、ふ…余裕ぶっていられるのも、今のうちですよ」

乱れた呼吸を整えながら、自分のもので満ちた万里の唇に噛みつくように口付け、舌を挿し入れた。
咥内に広がる青臭いにおいも、万里の唾液と混ざればどうしてか甘美な味にすら感じられて、互いに貪るように舌を絡ませ合うと、ぐちゅぐちゅと辺りに厭らしい水音が谺し、やがてゆっくりとどちらともなく唇を離す。

「……万里も、そろそろ出したいでしょう?」
「…なんだ。あんたのナカで出させてくれんのか?」

そう言いながら、万里のモノを軽く扱けば直ぐにそれは熱を持ち始めて。
万里の言葉に、アルバートはくすりと笑う。

「上手にお強請り出来たなら、出させてあげても良いですよ」
「ほざけろ」

アルバートは万里が素直に強請る訳がないと解っていた。解ってはいても、そんな反応をする万里が愛おしくて、けれど憎らしくもあって――。
もっと快楽に乱れ、縋り、強請る姿が見たかった。自分の手によって、この男の乱れる様が。

「…あなたも強情ですね、万里」
「お互い様だろうが」

其処まで言うと、どちらともなく噛みつくようなキスをして、戯れに相手のそそり立ったそれに手を這わせていく。
そうして次第に肌を寄せ合うと、互いのモノを擦り付け絡ませ合った手で摩擦する――所謂兜合わせをし、共に快楽を貪るのだった。

快楽に耽り、気が付けば夜も明け部屋に薄明かりがさす頃。
大きな窓から差した朝日に照らされ輝くブロンドの髪を指で梳きながら微睡んでいると、自らも万里の身体を撫でながら、黙ってその愛撫を受けていたアルバートが突然口を開いた。

「ねえ。私が欲しいですか、万里」
「…欲しいって言ったら、くれるのか?」

先ほどまであんなに自分を抱きたがっていた男が、一体どういう風の吹き回しだと、万里は驚くより先にアルバートの言葉の真意を探ってしまう。

「いいですよ。あなたを抱く事を諦めた訳ではありませんが、今日はそれ以上に一生懸命私を攻め立てる万里の姿を見たくなりました」

――それに…あまり事を急いても、余計に警戒するだけでやり辛くなる。万里をじっくり味わうのは、次回のお楽しみとしても、充分遅くないだろう。

アルバートは、性に開放的な性格である。自らが攻め立て相手を高みに追いやる事の方が好いていたが、自分が受ける事も、特に抵抗があるわけではない。
先ほどの前戯にしても、万里の性技が巧みなのは事実で、久しぶりに相手に喰われる感覚を、感じてみたくなったのだ。

「…その代わり、たっぷりと愉しませて頂きますよ」

ぺろり、と舌なめずりをして、アルバートは自分と同じく獰猛な獣の眼をした万里の唇にそっと口づける。それが、はじまりの合図であった――。

ぐちゅぐちゅと厭らしい水音が辺りに谺し、腹這いになったアルバートは圧迫感に堪えるようにシーツをきつく握りしめた。
久しぶりに後ろを開かれる感覚に、全神経が集中し、万里の指の動きに合わせ身体が跳ねる。

「……ん、…っ、ぁ…ああ…っ」

たっぷりと塗られたローションのお陰か、万里の技巧のお陰か、はたまたそのどちらもか、痛みを感じないアルバートの身体は、快楽だけを正確に拾い上げてゆく。
無意識に尻を突き上げるような形になり、アルバートは美しいブロンドの髪を時折振り回すようにして、その刺激に堪えていた。

「……くっ…」
「…どうした、腰が震えているが」
「ふふ…、そろそろ万里が欲しくなってしまいました」

アルバートの感じる箇所を的確に攻め立て、けれど決定打は与えない万里の指先に、自然と腰が震えてしまう。
万里の言葉にアルバートはフッと笑って、更なる刺激をせがむように腹這いになっていた身体を起こし、四つん這いの体勢を取る。
役割と割り切ってしまえば、万里の言葉攻めすらアルバートを愉しませるものにしかならないのだ。

「……ふ、ならば存分に受け取れ」
「……―――う、ぁああ…っ!!」

そういうや否や、万里はアルバートの濡れそぼったそこを、勢い良く貫いた。
指とは比べ物にならない質量に、アルバートは眼を大きく見開き、ぺたりと肘を地面に付けてしまう。
母国でも何度か男を銜えて来たアルバートだが、日本人である万里のモノは外国の男たちにも負けず劣らぬ質量で。日本に来てからは久しく感じていなかったそれに、快楽にぶるりと身体が震えた。

「……くくっ、ほら…どんどん味わえよ。俺の味を知りたかったんだろう?」

万里が動く度にナカを深く抉られ、アルバートは久しぶりに抱いた被虐の快楽に蕩けきっていた。

――三宮万里は、やはり極上の男だ。
自分を攻め立てる男の荒い息を背中で感じながら、アルバートは改めて万里の魅力に惹かれていく。

バックの姿勢で、何度も何度も前立腺を抉られ、万里の先走りとアルバートの腸液とで、抽送を繰り返す度に其処は艶かしい水音を発した。
そろそろ朝を担当する執事の仕事が始まったのだろう。遠くから聞こえる聞き慣れた声、生活音。それらの音すら、ふたりには興奮の材料にしかならないのだ。

体勢を変えつつ抽送を繰り返しながら、何度も口づけ合って。何度も吐き出された欲望に膨らんだ腹をさすりながら、アルバートはほぅ、と恍惚のため息を吐いた。

「…ああ、最高だ。…万里、お前はやはり…素晴らしい」
「それはどーも。あんたも、こっちの方が案外性に合ってるかもしれねーぞ」
「ふふ、あまり調子に乗らないことですね。…今回は特別です。」

万里の頬に手を寄せて、アルバートは囁く。ナカではまだ万里のものが蓋の役割を果たしていた。
アルバートの賛辞にクツクツと笑みを零しながら、アルバートの腰を押さえグッとアルバートのナカに埋まったままの自らのモノを押しつけ、挑発めいた言葉を口にすれば、アルバートは意図的に締め付けを強くし、それに対抗して。

「…次は、万里に啼いてもらいますから覚悟しておいて下さいね」
「そう簡単に押し倒されてはやらねーぜ?」
「ふ…それでこそ落とし甲斐があるってものです。――私もそろそろ、本気になりますよ。Etes-vous pret?(覚悟はいいか?)」
「Pourquoi pas!(臨むところだ)」

その言葉の応酬により、再び戦いの火蓋が切られたのである。

この不敵に笑う美しい男が陥落した姿を想像すると、堪らなく心が昂揚する。この感情が恋なのか、ただの興味対象でしかないのか、まだアルバート自身理解出来てはいなかった。
ひとつだけわかるのは、この男がたまらなく欲しいという貪欲な思いだけで。

――ふたりの物語はまだまだ、はじまったばかりなのである。

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主アルの妄想をしてたら、見たいと仰って下さったので、いつもお世話になってますにゃんくるさんに捧げてみます!こっそりと!←

はい。
なるべく元の人物像を壊さないよう、にゃんくるさんの好きなご主人様の受けやアル様攻め要素も示唆しつつ、アル様を攻めさせて頂きました。

…そのつもりでした。がw
なんじゃこりゃっていう感じに(°°;)

にゃんくるさん怒っちゃいやん((>Σ<))
愛だけは籠もってるんですがねぇ(´・ω・`)アルェ…