主水

「ふ、いい恰好だなぁ?水嶋」
「だ、まれ…っ、この、下種野郎、…がっ!」

身体を拘束され、毎夜好きなように身体を弄ばれる。
男としての自尊心すらズタズタにされ、唯一の光である政春の心すら奪われて。
だというのに俺の身体はすっかりと三宮の熱に慣れ、更なる刺激が欲しいと気づけば自ら腰を擦り付け強請る始末。

「相変わらず素直じゃない口だな。…下の口とは大違いで」
「…ぁ、や……っ、……やめ…っ」

腰を捻らせ、覆い被さって来る三宮の方に上半身だけ向きやると、見た目よりもがっしりとした肩に腕を回す。
汗ばんだ首筋に鼻をすり寄せると鼻腔に広がる三宮のかおりに、胸がキュッと痛んだ。まるで、細い針で刺されたかのような、鈍い、ちいさい痛み。

そう。それはまるで、俺が政春に感じるような、少しだけ苦しくてほろ苦くて、だけどどうしてか、すごく幸せになる痛み。

「水嶋…」
「ぅ…、や、…それ…やめ…っ」

快楽に掠れた低い声が、吐息が俺の鼓膜をくすぐり、犯す。
体内を慣れ親しんだ熱に掻き回され、耳ではいつも俺を辱める意地悪な声が甘い響きを含みながら俺の名前を呼んだ。

「それとは、どれのことだ?言ってみろよ」
「…っ、く、そ…やろ…っ」

――わかっているくせに。全部気づいているくせに。

そんなこと言えるはずもなく、俺は思わず悪態を吐いて、三宮に抱きついたまま顔だけ逸らした。
三宮はそんな俺の顎を掴んで自分の方に向かせると、無理矢理噛み付くように口つける。

「ん…っ、ん…ぅ……、…っ」

ぬちゅぬちゅとまるで生き物のように動き回る舌に、咥内を犯され生理的に涙がこぼれる。
三宮はかすかに目を細めると、俺の涙を拭って見せつけるように舌で掬い取った。

「甘いな。お前の涙も、唇も」

――癖に、なりそうだ。

口づけの合間に囁くように告げられた言葉に、身体が震えた。
段々と深くなっていく口づけに、力が入らない。首にまわした腕が緩みかかり、ああ落ちるな、とどこか他人事に考えていると、突然三宮に腰を支えられた。と思えば、そのまま俺の上から退く。

「………ぁ」

三宮の熱が消え、それがどうしてか切なくて。思わず声を漏らした俺に、三宮はクツクツと喉を慣らして笑った。

「…な、に…笑ってんだよ…っ」
「いや、そんな風にあからさまに寂しがられると、俺も男冥利に尽きるというか、なあ?」

それが恥ずかしくて情けなくて三宮を睨みつけるものの、当然というべきか三宮に効果があるはずもなく、むしろ更なる追撃を受ける始末だった。

「ほら、水嶋。お前がお待ちかねのものをやるよ」

ベッドに腰掛けた相変わらず人を食ったような笑みを浮かべている三宮は、そういって中途半端に与えられた刺激にくったりとしている俺の身体を引っぱり、膝の上に乗せると、先ほどまで三宮の熱が埋まっていたそこへ、再び熱い杭を打ち付けた。

「……っ、あ、ぁ…っ」

強い圧迫感に、感じるのは強い快楽と、甘い苦しみと、欠けたものがようやく埋まったような幸福感。
三宮に腰を掴まれて身体を上下させられた俺は、ただ三宮の頭に縋り付くように掻き抱いて喘ぐしか出来なくて。

「イイ顔だ」
「…みつ、…っ」

だらしなく口を開いて、喘ぐ俺のこの顔のどこか、イイんだ。ただみっともないだけだ。俺ばかりが、こんな風に乱れて三宮にいいように弄ばれて、今だって気まぐれに優しく抱かれているだけだというのに、そんな気まぐれが嬉しいだなんて、俺はどうかしてしまったのだろう。

――政春には、もっと優しくしてやるんだろう?
もっと髪を撫でて、優しくキスして、かわいくお強請りする政春の望むままに、望むものをやるんだろう?

「……っ、……あ、ぁっ、も……っ、三宮……っ」

いつからだろう。いつから俺は、政春の隣にいる三宮じゃなく、三宮に甘やかされている政春に、こんな風に、嫉妬するようになったんだろうか。
いつから俺は、こんなろくでもないやつを、コイツを、好きになってしまったんだろうか。

「いいぞ、好きなだけイけ」
「やっ…い、…一緒、に……っ!」
「……、……あぁ」

切羽詰まった声をあげながらなりふり構わず三宮に縋り付くと、三宮は少し驚いたように目を見開いたが、またすぐにいつもの余裕めいた、けれど限界が近いのかけだるげな色気を含んだ笑みで、頷いた。
そうしてそれから程なくして、俺が三宮の腹へ欲望を吐き出すのと少し遅れて、三宮も俺の中へと熱を放ったのだった。

青臭い独特のにおいがこもったベッドのなか、俺は三宮の腕に抱かれながらけだるい身体を休ませていた。

「…おい、暑くるしい」
「お前は本当に素直じゃないな…。最中とは大違いだ」

――それは、政春と比べているのか。

喉元まで出かかった言葉は、けれどそんなことを口に出来るはずもなく、言葉にならず消えていった。

「…っ、…悪かったな」

代わりに出た言葉は、凡そ素直とはかけ離れた言葉で。
顔を見られたくなくて、背を向けた。今の俺は、きっと、酷い顔をしているから。

――わかってる。政春は魅力的な人だ。それは俺がきっと、一番知っている。だからこそ、俺なんかじゃ敵うはずもないということも、よく、知っている。

「お前が思ってるほど、俺はお前のことを悪く思ってるわけじゃない。お前は可愛いよ、水嶋」
「………は?」

耳元で優しく語りかけるような口調で囁いた言葉に、思わず振り返って聞き返してしまう。それほどに、衝撃的な言葉だった。

「なんだ、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして。そんなに俺の言う事が信用ならないか?」
「……だって、…え……お前、なに言って…」
「お前は俺が、進藤さんを好きだと思ってるんだろう?」
「それは、だって――」

本当のこと、だろう。じゃないと、あんな顔しないだろ。
あんな風に、俺といるときは、あんなに甘い顔しない。あんな愛しいものを見るような目で、見ない。
当たり前だ。俺は、一介の執事で、ただの、暇つぶしの道具で、政春を奪おうとした、ただの厄介者なんだから。

「教えてあげようか」
「なに、を」

まるで内緒話をするかのように声を潜めて、少し楽しそうな色を含ませたその声は、まるで悪戯に成功した子供のよう。

「お前の話をしていたんだ、水嶋」
「………?」
「見てたんだろ。この前、俺たちが話してるところを。その後からお前の様子が少しおかしかったからな」

気にしているんだってことが、すぐわかった。と笑いながら話す三宮。
けれど俺には、なにがなんだかまだ混乱している頭では、理解しきれずにいた。

「お前、俺が好きなんだろう」

断言しきった言葉は、確信に満ちたそれで。
思わずギクリと肩を震わせた俺に、三宮は意地悪く笑みを浮かべた。

「最初はまた進藤さんのことで嫉妬しているのかと思ったんだがな…最近のお前の反応が変わって来たからな」
「……く、か」
「……なにか言ったか?」
「…迷惑、か…?」

迷惑か、だなんて。迷惑に違いないのにそんな儚い期待を抱いてしまうくらいに、俺は、このひどい男に溺れているんだろうか。

「………お前はどう思う、水嶋?」
「……はっ…、ほんと…最後まで酷い奴だな…っ」

それを、自分の口から、告げろというのか。
無理矢理からだを開かせて気まぐれに人の気持ち振り回して、傷まで広げて、本当に、本当に最低な男だ。だというのに、どうして俺はそんなひどいことをされても、こいつのことを嫌いになれないんだろうか。

「やっぱり勘違いしてやがるな」

嗚咽を漏らす俺に、三宮は何故だか困ったように眉を下げ、いつもとは少し違った笑みを浮かべた。それは、すこし困ったような、戸惑っているような、三宮らしからぬもので。

「俺が水嶋を好きな事を、進藤さんに気づかれて、そのことでからかわれてただけだ」
「………ぁ…?」

いま、こいつは、なんといった。好き?誰が、誰を。こいつが、俺、を?幻聴ではなく?

「なあ、俺がここまで言ってやってるんだ。わかるだろう。わかったら、さっさと俺のものになれよ、――彬」
「三み……っ」

三宮にはじめて呼ばれた名前。どうしてかそれだけで俺の名前が特別なものなんじゃないかと錯覚するほどの幸福と、衝撃。
それに応えるように開いた唇は言葉を発することなく、三宮の熱い口づけによって遮られて。

「愛してる」

口づけと共に何度も落とされるその言葉に応えるように、三宮の身体に腕をまわすと、咥内に侵入して来た舌を迎え入れながら、三宮の熱を強請るように腰を擦り付けたのだった。

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初めてトピに投稿したときに熱烈なラブコール(違)を頂いて以来ずっと仲良くさせて頂いてる影さんに捧げます。
いつもこんなアホのお相手ありがとーう!!これからもお世話宜しくお願いします←

え?リクエストに沿えてない?シーッ!d(゚ε゚;)