嘯く子供の甘い舌

コンコンと控えめなノック音の後に、入室の許可を求める聞き慣れたたどたどしい声。
万里が上質な本革張りソファにふんぞり返ったままそれに言葉を返せば、部屋に入って来た人物―御園しいなは白い頬を赤く染め、まるで恋する乙女のように可憐な笑みを零しながらぺこりと一礼してみせた。

「ご……主人、様…お呼びですか」
「ああ、御園……来たか」
「は…い。ご主人様がお呼びだと聞いて、駆けつけ……ました。俺を…呼んでくれて……嬉しい、です」
「ああ、すこし面白いものが手に入ってな」
「面白い…ものですか……?」

三宮万里はその圧倒的なカリスマ性と確かな手腕で信奉者は世界中に溢れるほど存在している。が、しいなのそれは万里自身が不審に思うほどの熱狂的なそれだ。

感嘆の溜息を零しながら、いつまでも眺めていたくなる。一種の芸術品と言っても過言でない整った顔立ち。だというのにしいなの表情は何処までも冷えきっていて。其処が一部の間ではむしろ人気らしいというのだから普段地位にふんぞり返っている輩も大概ミーハーである。
まさに氷の美貌、と評するのが相応しいような、鋭く尖った美しさ。地位や名誉に関係なく、どんな人間にも謙ることをしない。それが御園しいなという人間であった。
けれど、それは飽くまで万里以外の者に対する時のみの話で。

「ああ、面白いもの、だ」
「……ご主人…様が、そこまでいう…のなら……きっと……とても、凄いものなんでしょう……ね」

どこまでも甘く、蕩けきった瞳はふにゃりと緩やかな弧を描き、しいなは厭に熱の籠った瞳を万里に向けている。
尤も熱烈な視線を向けられている万里の方は日常茶飯事のため、最早気にしてすらいないが。

御園しいなは、大手電機メーカー企業グループの”長男坊”である。尤も、それをしいなが望んだことはなかったが。
寧ろそんなくだらないものの代わりに、大切なものはしいなの手のひらから毀れ落ちてしまった。万里に出逢うまでのしいなはきっと、死人となんら変わらぬそれだっただろう。万里がしいなを生かしたのだ。
霧のなかで自分を見失っていたしいなを、万里が照らした。そのまばゆい光で、しいなを導いたのだ。
しいなにとって万里は神様だった。しいなにとってもはや無意味でしかなかった世界が、万里を見つけたその時から素晴らしい世界へと変わり。そうしていつか、彼の役に立ちたいと。そのすべてになりたいと。愛されたい、と。

――人間とはかくも欲深いものなのか。
今まで何一つ欲しがらなかったしいなが、唯一自分で見つけた心の奥底から欲しいモノ、それが三宮万里その人で。
ひとつを得ればもっともっとより良いものを、と求めてしまうのだ。それが、喉から手が出るほど欲しているものであれば尚更、求めずにはいられなかった。

「御園」
「は…い、ご主人…様」

万里の口から紡がれる自分の名前はこの世界のなによりも尊いそれのように感じられ、しいなは思わず口元を緩ませる。
しいなの世界は万里を中心に回っている。否、最早しいなの世界には万里しか存在していないと言っても過言ではないだろう。
万里から与えられるものならば痛みでも苦しみでも、なんだって……幸せで。万里が自分の為にくれるものならばどんなものも、しいなにとってはご褒美にしかならないのだ。
それほどまでにしいなは万里に盲目的なまでの信奉心を抱いていた。

「インガンダルマ、というのは知っているか」
「……バラ、ムツ……です…よね………?」

体内の油脂成分のほとんどが人体で消化されないワックスエステルで出来ており、様々な問題を起こす食品衛生法に該当する食品として厚生労働省から流通禁止に指定されている深海魚である。
しかしながら食べる事自体は禁止されていない為、好んで自ら釣りに行く者も少なくないという。そのしっかりとした歯ごたえと濃厚の味わいから一部の者の間では大変人気があるらしい。

「一度食べてみたいと思ってた」
「……とって、きます…!!」

恐らく万里はしいなにバラムツを釣って来いと、そういう意図で呼び出したのだろう。そう判断したしいなは、いつものとろんと眠そうな瞳が嘘のようにキッと眼光を光らせると凛々しい表情を作ったのだった。

「相変わらず人の話を聞かんやつだな」
「…………?」
「面白いものが手に入った、と言っただろう。橘」

小首を傾げるしいなを鼻で笑うと、万里は指を慣らして橘を呼び出す。

「はい、ここに」
「!」

そうすればドームカバーで覆われた”なにか”を片手に、音もなく現れた橘が綺麗な一礼してみせた。
しいなにとって、万里以外の人間がなにを喚いてもただの邪魔な何かでしかないが、この男だけはどうにも得体が知れぬなにかを感じて、すこしだけ警戒してしまう。思わずキッと睨んでみせたしいなに、橘はフッと口元を小さく釣り上げただけでまた静かに退いていった。
まるでしいななど眼中にない、とでも言うかのようなその態度に、すこしだけムッとしてしまう。

「くっく…まるで毛を逆立てるネコだな」
「……あ、…俺……」
「御園、来い」

けれどしいなの怒りは万里のその言葉ひとつで、どうでも良いものへと化してしまう。
きっと漫画やアニメだったら今頃しいなのまわりには花が咲いているのだろう、それほどまでにしいなの表情は先ほどのそれとは打って変わって明るいものだった。

「ご…しゅじ、様……うれし…です」
「は、そうかよ」

傍に来ることを許されたしいなは、ゆったりとしたソファの隅っこにちょこん、と座り、ふにゃんと蕩けきった表情で万里へと擦り寄る。
今日は機嫌が良いのだろう。万里は擦り寄って来るしいなの頭を乱暴な手つきでぐしゃぐしゃと掻き回すように撫でた後、白い首筋にすっと指を滑らせた。

「……、ぁ…」
「ふ…少し触れただけで随分いやらしい顔をするじゃないか。………いい顔だ」
「……は、ぁ…っ…お、れ…」

万里の指に慣れきったしいなの身体は、すこしの刺激を与えられただけで更に強い刺激を求めてしまう。もっと自分に触れて欲しいと、自分で気持ちよくなって欲しいと思ってしまうのだ。
欲情に瞳を潤ませ強請るように万里を見上げるしいなに、万里も満足げに口元を釣り上げると薄く開いた唇に噛みつくように口付けた。
そうしてシャツの上から肌を撫ぜられ、ビクンビクンと身体を震わせれば壮絶な色気を含んだ笑みを向けられて。

「…ふっ、ン……ぁ…っ、ご主人、様……っ」
「勝手に欲情してンじゃねーよ」

言葉とは裏腹に更にしいなを高みに追いやろうとする万里の手は、熱の籠ったしいな自身をズボン越しに掴むと、しいなの弱いところを明確に責め立てるのだ。

「……口を開けろ」
「…ふ、ぁ……?」

言われるがままに口を開ければ、万里は指で摘んだなにかをしいなの口に放り込んだ。予想外の感触に思わず顔を歪ませれば、万里に無理やり口を閉じられ咀嚼するように命じられる。

「今度はこっちだ」
「……ん…」

言われるがままにしいなが飲み込んだのを確認すると、万里は自分の唇に挟んだ魚の切り身を指さし今度はそれをしいなに啄むようにン、と顎を突き出した。
誘われるままに顔を寄せ歯を立ててそれを咀嚼していけば、やがて万里の唇に自らのそれが重ね合って、万里が止めないのを良い事にしいなは夢中になって貪るように口付ける。

――サカナ味の、キス。
ちっとも色気のないはずなのに、万里とのキスだと思うだけでしいなにとって何物にも変えられない魅惑的なソレに変わって。まるでネコにとってのマタタビのように、その甘い唇に酔いしれてしまう。
体勢を変え、角度を変え。何度も何度も口づけを交わせば、太ももにかたい熱が当たっているのを感じ甘い息を吐いた。腰の奥の方から染みだしせり上がって来る痺れるような熱に、堪らず腰をくねらせる。

「………満足か」
「まだ……、です…」

艶やかな溜息と共にもっとと強請るように舌を突き出したしいなに、万里は自らの昂りを押しつけながら再び噛みつくように口付けた。
何度も何度もしいなの咥内へとエサを運びながら、ついでとばかりに舌を絡ませてしいなの咥内を蹂躙するような深いキスを交わされ、すっかりとしいなの身体は弛緩してしまう。

「なに人の腹で勝手にヨくなってやがる」
「……ぁ、ん……っ、…は…」

無意識に万里の腹へと自身を擦り付けていたらしく、すっかりとズボンをぎゅうぎゅうと押し上げて苦しそうなソレを万里が咎めるように手のひらでぎゅうっと握りしめる。痛いくらいの刺激すら、今のしいなには快楽にしかならなくて。

「…はっ、なんで握られて汁濡らしてんだよ」
「……あ、…ごめ……なさ、俺……」
「御園」
「は、い」
「俺を楽しませてみろ。……うまく出来たら褒美をやろうじゃねーか」

馬鹿にするような万里の視線と共に先端をぐりぐりと引っ掻かれ、堪らずに腰を揺らしてしまう。誤摩化しのきかない程に濡れそぼったそこが気持ち悪くてじれったくて。
万里の言葉に内股を擦り合わせながら、しいなはコクリと頷いた。

ソファに腰かける万里の股の間に顔を埋め、しいなは四つん這いのような体勢を取っていた。
しいなの纏っていた執事服は万里を楽しませる為の余興―――ストリップとしてとうの昔に剥がされており、生まれたままの姿の為に万里からはしいなが万里のモノを愛でながら興奮を覚えている姿もすべてが丸見えである。

「き、もひ…れ……すか?」

使い込まれたそこはしいなのソレよりも赤黒く、グロテスクな容貌をしていて。けれどしいなにはそれがこの世の何よりも美味しいものに思えた。
咥内に広がる青臭い匂いも舌に絡み付く不快なはずのソレも、どれもがしいなを興奮させる材料にしかならなくて。

「悪くはない」

万里に頭を掴まれているため、小さな口には収まりきらないであろう質量のそれに喉奥を突かれ、思わず嘔吐いてしまう。
けれど自分の奉仕によって育っていく万里のモノを感じればしいなはそれだけで幸せだったし、自身の苦しさなど微塵も問題にならないのだ。

「あ…うれし、……です……俺、……っ」

先端を口に含んで小さな唇を窄め擦りあげる。そうして思いっきり吸い上げれば、万里はビクンと腰を震わせて、咥内には先ほどよりも濃いドロドロとした苦い味が広がる。

(俺で、……感じてくれて、る……)

喉に絡み付く万里の体液。咥内でぴくんぴくんと震えるソレが愛おしくてたまらなくて、しいなは無意識にソファーへと、すっかりと成長しきった自身を押しつけているのに気が付かないまま、更に万里を責め立てた。

「ん、…ンっ……」
「…は、……ぁ……」
「ご主人、さま……っ、…ぅ…ンッ、俺…も、…欲し…いです…っ」

万里のソレを責め立てる度に、触ってもいないのに同じようにして昂っていく其処が苦しくて、もどかしくて。……触って欲しくて。
ついにしいなは上体を起こすと万里の方へと躙り寄って、手を掴んで自らの其処へと導くのだった。

「……待てもできねぇ駄犬が」
「!……ご、め……なさ、俺……俺、」
「まあ良い。…よく頑張ったな、御園。褒美をやろう」
「!」

言いながらごく自然な動作でしいなを組み敷いた万里。
しいなは突然の事に目を丸くしているが、すぐに表情を緩ませ万里の首に腕を回して甘えるように鼻を擦り寄せたのだった。

「ご、主人様……俺、しあわせ……です」
「…そうか」

ろくに触れてもいない筈の其処は既にしいなのカウパー液で濡れそぼっていて。
先端部を軽く引っ掻くように指で掬い取ると、それをしいなの後孔へと塗りたくる。

「ぁ…ッ、」

突然与えられた性感帯への刺激。万里が指を動かす度にピクンピクンと身体を震わせるしいなの様子を楽しむように、万里はわざと指をゆっくりと動かしているのだろう。
焦れったい刺激にしいなは自分から身体を揺らしてしまう。尤もその度に万里から咎められ更に辛い思いのするのだが、つい無意識に身体が揺れてしまうのだから直しようがなかった。

「……ンなもの欲しそうな顔するなよ」
「…だって、俺……も……欲し……、」

まわりを焦れったく円を描くように撫ぜられ、解される。万里の質量に慣れたそこは、しかし何度受け入れてもキツく、処女を相手しているような締め付けで万里を呑み込むのだ。

「ちゃんと解さねえと辛いのはお前だぞ」
「…痛、くても……うれし、から」

――だからはやく、ください。
まるで娼婦のように熱っぽく、男をそそらせる艶やかな声。

「…ぅ、…あ…ッ!!」
「は、……力、抜け…」
「い、れてな……ふ、…ぁあッ」

誘われるままに一気に突き上げれば、しいなは背中を弓ならせながら絶妙の締め付けで万里を呑み込んだ。気を抜いたら持っていかれそうなそれに、悪寒とは違う波にゾクリと背中を震わせながら万里は熱い息を吐いて。
そうしてまるで獣のように、しいなの細い身体を掻き抱いたのだった。

「……、」

なにかを舐めるような水音と、下腹部に感じる違和感に、ゆるりと意識が浮上していく。

「…んっ……、…??」

目が覚めた万里の目にうつったのは、自分の下腹部に顔を埋めなにかを舐めとっているしいなの姿だった。

「………、」
「……はぁ、はぁ……ご主人、さま……の……」
「……」

恍惚の表情を浮かべながらしいなは万里の後孔へと舌を捩じ込み、じゅるじゅると吸い上げているではないか。

「御園」
「……おはよ、ございます」

万里の声に反応したのか上半身を起こしふにゃりと柔らかく微笑むしいなに、万里は明らかにしいなに舐められただけとは違う違和感に顔を歪めた。

バラムツ。とてつもなく美味しいが、食せば人体には分解できない油が尻から垂れ落ちたり、腹痛を起こしたりなどの問題を起こすという事から流通が禁止になった魚だ。
しいなに食べさせるついでにほんの7、8切れ程度口に入れただけの万里ですらこうなったのだから、しいなも同じような状態になっている筈だが平然としているところを見ると、既に処理をしたのだろうか。

「あの魚、すごい……ですね」
「……ああ」
「ご主人様の、…綺麗です…」

こうして話している間も尻の間につぅ、と流れていく透明な油。本当になんの前触れもなく濡れていくのだから堪らない。
股の間を陣取っているしいなからは万里の後孔をてらてらと濡らすソレが溢れ出て来る様子がよく見えるのだ。しいなからすれば堪らなく扇情的なその光景に、すっかりとしいなの身体は臨戦状態であった。

「……人のケツ勝手に舐めまわしてンじゃねーよ、変態か」
「…ぁう…っ」

言いながら万里がしいなのモノを握れば突然の刺激に力んでしまったのだろう、しいなの座っていたところを中心にしてシーツに透明な染みが広がり、それを見た万里はニタリと悪人のように口元を釣り上げるのだった。

「キレーに処理してくれた礼に、俺も手伝ってやる」
「…ッ!?」
「四つん這いになって、こっちにケツ向けて股がれよ」

そもそも万里よりも多くバラムツを食べていたしいなになんの異変も起こらないはずがないのだ。

「こ、んな…格好……恥ずかし、い…です…」
「フン、初めてじゃねえくせに何今更恥ずかしがってやがる」
「…ひ、ぁッ」

万里の命令に最初は恥ずかしがって抵抗していたしいなだが、やがて観念したように万里の顔に股がるようにして尻を向けた。
視界いっぱいに広がるしいなの肉付きの薄い尻。羞恥にひくひくと震える後孔からは、開閉を繰り返す度に透明のそれで濡らされ、てらてらと光っている。
恥ずかしい、と言いながら感じているのは羞恥だけではないのだろう。しいなのペニスは萎えるどころか、先ほどよりも硬度を取り戻していた。

「……機械油のような匂いだな……」
「ッ、ひぅ」

ひくつく窄まりにふう、と息を吹きかけて鼻を近づければ、堪らなくなったしいなは万里の太ももに抱きつくようにして前のめりに倒れ込んだ。身じろげば屹立した万里自身が頬にぶつかるものだから、また無意識に窄まりを締め付けてしまう。

「こんなモン良く美味そうに舐めれんな…」

言いながら万里は、とろとろと溢れ出て来るそこに指を這わせくるりと円を描くようにして抉っていく。
ほんの数時間ほど前までたっぷりと可愛がられた其処に刺激を受け、しいなが身体を揺らす度に屹立した自身がぺちぺちと腹部に叩きつけられて。ダラダラとだらしなく涎を垂らすしいな自身が、万里の腹を汚していった。

「ご主人様、の……味がして…すごく…美味し、かったです…」
「お前は相変わらずブレねーな」

ここまで来るといっそ清々しいほどの、異常さの持ち主である。そのうち万里の体液を飲んだだけで自然と絶頂出来るようになったとしても特別驚きはしないだろう。

「…うれし……、です…」
「褒めてないぞ」
「……それ、でも……嬉しい、です」

万里に個として認識されている、認められている悦び。
一方的に憧れていたあの頃とは、違う。それがしいなにとってどれだけの価値があるのか、きっと万里は知らないのだろう。けれど、それで良いと思う。

未熟な自分のまま完璧な存在である万里の関わることは、しいなにとってむしろ恥ずかしく思われたことだった。せめて彼の傍に在るのに相応しい存在になるまではしいなは万里のことを影で見詰めることしか出来なかった。

「……そうか」

きっと万里はしいなの言葉の意味を半分も理解していない。けれど、しいなはそれで充分だった。

「ご主人、様……そっちに、行ってもいい、ですか…」
「………さて、どうしようか」
「!……おねがい、します…」

万里の顔が見られないのが寂しくて、自分でも気づけばそう強請っていた。
中途半端に高められた身体がジンジンと疼き、早く万里が欲しいと訴え始めていて。

その薄い唇でいつものように乱暴に口付けられたい、その強い瞳に自分を映してほしい。そうしていつか万里のすべてになれたのなら、それはなんて素敵なことだろう――。
万里の傍に在る時だけが、しいなは誰に言い訳する必要もない強い強い、しいなだけの欲望を抱ける。爆ぜそうな程の幸福を覚える。万里だけがしいなを生かしてくれる。万里の傍だけが、この世界に価値を見出せる。

「……ま、そろそろ良いか」
「!!!ありがとう、ございます……」

万里の言葉に、しいなはパッと表情を明るくさせる。
そうして少しだけ萎えてしまった万里のソレに手を這わせると躊躇いもなく咥内に含ませたのだった。
決して美味しくないはずのそれをまるでキャンディーを舐めるように、ちろちろと舌で転がして。少しするとすっかりと元の硬度を取り戻したそれに、しいなはまるで使命を達成したかのような表情で万里を振り返るものだから、思わず万里はしいなの頭を撫でていた。
――らしくない、とは思うが、きっとバラムツの不思議な体験に酔っていたのだ。いつもより表情豊かなしいなが珍しかった、というのも理由のひとつかもしれないが。

「上に乗れ」
「……は、…い………っ、ン……ぁッ!!」

バラムツの油によりローションで濡らす必要もないほどに其処は滑りが良く、むしろ気をつけなければ直ぐに抜けてしまうほどで。
体勢は普通の騎乗位であるはずなのに、良すぎる滑りの為にいつもとはちがった刺激に、しいなは背中を弓ならせながら深く挿さった部分をぶるぶると震わせた。もちろん一息で突かれ、その強すぎる刺激に驚いた、というのもあるが。
万里の方もいつもよりも締め付けの強いしいなの中に、すぐに持っていかれそうになるのを必死に堪えていた。

「……は、…っ」
「ぁ、う…ンっ、…は、ふ…」

首に腕をまわし、ぎゅうぎゅうと擦りつくしいな。戯れに摘まれる乳首もすこしの快楽も拾うようになってしまった今の身体には、焦れったい刺激にしかならない。耳朶、首筋、肩、鎖骨。万里の唇が段々と下にくだっていき、甘く歯を立てられる。鈍い痛み。それすらも、心地好くて。

「あ、……ッ」

ぴりり、とした痛みが、腰を突き抜ける。
口付けを強請って声にならない声をあげるが、万里には届かない。切なくなって万里の首筋に鼻を埋めると、鼻腔に万里のかおりがいっぱい広がって来て、泣きたくなるほどの幸福を覚えた。

「ご主人、様……っ、好き……す、き……です……大好き…」

いつもは余り口にしない類の――恋の言葉を口にすれば、万里はしいなの言葉ごと奪うように口付けた。
万里のキスは、いつもすこしだけ荒っぽい。すべてを奪うような深い深いそれである。

「……まじぃ」

少しして唇を離すと、ふたりを繋いでいた銀の糸が名残惜しげにぷつり、と切れていって。万里は盛大に顔を歪ませ、舌を突き出してそう呟いた。
恐らくしいなが舐めていた万里から分泌されたバラムツの油のことを言っているのだろう。万里いわく機械油のにおいのそれは、決して美味しいとは言えない味をしている。

「あ……ごめ、なさ…」
「うるせえよ」

思わず反射的に謝罪の言葉を口にするが、万里はしいなの言葉を遮るようにして再び口付けを交わした。
万里の舌に咥内を蹂躙され、自分の身体に触れられる。今じゃすっかりとしいなの身体は、万里好みの反応を見せるようにまでなっていった。
なにも知らなかった自分の身体を、万里が変えていったのだ。

(俺……しあわせ、だ……)

願わくば誰にも邪魔されないようにふたり溶け合って、いつまでもこうしていられたらいいのに。
しいなは有り得ない夢に想いを馳せながら、万里から与えられる熱に酔いしれていくのだった。

ご主人様LOVE企画に参加させて頂きました。ほんのりエロの主御。
いろいろな恋のかたち第三弾『マニア』
お題は【告別】さまよりお借りしました。