エリ主エリ

※少しのクリスマス橘シナリオのネタバレが含まれます。
 ちょこっと病み気味、近親相姦ネタ注意。
 ある意味今までで一番地雷が多いので、苦手な方はバックスペース!

目に入れても痛くない。まさにその表現がぴったりなくらい、万里は自分の妹を溺愛していた。歳が大きく離れていたというのも、大きな理由の一つであろう。

身内の贔屓目というものを差し置いても美少女と言って良いであろう整った容姿と、猫のように気まぐれなのに他者を魅了してやまない圧倒的な存在感。
それらはまさに、三宮の血を良く現している。

「…お兄ちゃん!!」

普段は大人ぶった気丈な態度を見せてはいても、やはりまだまだ幼いエリサは、兄に甘えたい盛りなのだろう。

「久しぶりにお兄ちゃんと過ごせるのね!私、すごく嬉しい!」
「ああ、いつも寂しい思いをさせて本当にごめんな、エリサ」

久しぶりに休暇が取れたと言い、執事達には決して向ける事は無いであろう何処までも甘く優しげな”兄”としての笑みを浮かべながら、万里は満面の笑みを浮かべながら自分に飛びついて来るエリサを抱きしめた。

――エリサは、親の愛情をあまり知らない。というのも万里が学生の頃に既に母親は亡くなっていて、エリサは母親と過ごした記憶が少なく、父親は外出がちでエリサとはずっと、すれ違いの生活が続いていたからだ。
誕生日の日だって祝ってくれるのはいつだって兄である万里と、橘を始めとする屋敷の使用人たちだ。
父親からは、ただその年頃の少女が好きそうなプレゼントが、山ほど部屋に贈られて来るだけ。同じ年頃の子よりもずっとマセていたエリサにとって、既に魅力を失っている玩具ばかり。
けれど、エリサは自分が不幸だとは思っていなかった。それは、兄である万里の存在があったから。

「……お兄ちゃん、だいすき…」

自分の為に、万里はいくつものかけがえのない大切なものを、投げうってきた。それは、青春時代の貴重な時間だったり、その時でないと作れない思い出だったり。
自分にとっての様々な事を後回ししてでも、エリサの行事には必ず参加してくれた。周りに比べて歳若い自分が参加する事で、謂れのない噂や恥を受けたこともあっただろうに。
万里は何一つ文句言う事なく、いつだって惜しみない愛情をエリサに与えてくれた。

「俺も、エリサが可愛くて仕方ないよ」

自分の頬に小鳥が啄むようなキスをするエリサに、自分もお返しとばかりにキスを返し、ふわりと笑う。
そうして久しぶりにエリサを抱き上げようとして、もう片手では簡単に持ち上げられないくらいに成長したと気付いた万里は、込み上げる熱いものが抑えられず、固く目を閉じ、縋るようにその細い首筋に顔を寄せた。エリサの前ではもう二度と涙を零すまいと必死だったのだ。
その姿は、父親が失踪したあの日――自分も悲しいだろうに、エリサが気丈な笑みを浮かべ、万里をそっと抱き締めてくれた、あの日のようで。
二人はほろ苦い、けれど何処か温かな懐古の念に、想いを馳せたのである――。

※ ※

エリサは、ベッドの中に久しぶりに感じる自分以外の熱量に、ふにゃりと頬を緩めた。無理を言って一緒に眠って欲しいと強請ったのだ。
もう中学生にもなって、と言われたが、なんだかんだエリサに甘い万里は、久しぶりに一緒に寝たいと強請る可愛い妹のお強請りを、断ることなどもちろん出来る筈がなかったのである。

「……ねえ、お兄ちゃん…?」
「………ん?」

万里の腕の中にぴたりと擦り寄り、まるで恋人の如く指を絡ませ合う。
兄妹としてはおかしいこの距離も、ふたりにとっては極自然な距離感なのである。

「……もしも私に好きな人が出来ても、ずっと、ずっとお兄ちゃんが一番よ」

人の感情に敏感なエリサは、気付いていた。芹沢が自分の事をどう思っているか、そして、その気持ちが自分にとって、決して不快ではないこと。――そして、そんな自分たちを、兄がどう思っているのか。

「ふ、当たり前だろ」

少しだけ軽薄な笑みを浮かべながら即答する万里に、エリサは嬉しく思った。――私はお兄ちゃんの、所有物なのだ。その事が、異常なことだとは決して疑わずに。

「でも――お兄ちゃんの一番も、ずっとずっと、私でいてね」

エリサが万里のものであると同時に、万里はエリサのものであって欲しい。
普段は冷静なエリサは、兄の事になるとどうしても自分を抑えられなくなる。兄が自分以外の誰かと共に過ごしたと聞いただけで、醜く嫉妬心を覚えてしまうのだ。
この気持ちが親愛なのか、刷り込みなのか、恋なのか――エリサにはわからない。けれど、わからなくても良かった。
狂おしいほどの想い。それだけが、エリサにとって真実なのだから――。

「……もちろん」

だから、曖昧に笑う万里の言葉がホントでもウソでも、エリサにはどうでも良かったのだ。

※ ※

滑らかな白い肌。自分のものとは違う、かたい鋼のような、筋肉。均整の取れた体つき。
安心しきった顔をして眠る兄の寝顔を、恍惚とした表情を浮かべながらジッと見つめて、そっとその唇に口付けた。

兄が三宮の血を嫌っていることを知っている。それ故、女と契ることを止めたことも。男であるが故に、兄と交われる執事たちがエリサは羨ましくて堪らなかった。

「……あいしてる、の」

幼い少女の心の中で秘めるには、もうあまりにもその想いは大きく、そして灼熱すぎた。
父親のあまりに教育上相応しくない奔放な性環境に幼い時分から狂った性知識を植え付けられ、更にはエリサの全てと言っても過言ではない兄と交わる執事の嬌声を聞く度、幸せな家族の光景を見かける度、少しずつ歪んでいく想いを留めておくことが出来なくて。

「あいしてるの、お兄ちゃん…」

愛らしい顔に涙を浮かべ、エリサは自分と血のつながった兄の頬を撫ぜる。
乞うように紡ぐ言葉は、眠る万里の耳には届かない。

「…ごめん、なさい…お兄ちゃん…」

――貴方の嫌うこの血を、遺す証を欲する私を、お兄ちゃんはどう思うだろう。嫌悪する?優しく諭す?無言で、拒絶する?でも、ごめんなさい。もうとめられない。狂った歯車は、もう回り始めてしまっているのだから。

「……私のはじめて、もらってね…お兄ちゃん」

自らの寝巻きをはだけさせ、まだ誰にも触れさせたことのない滑らかな肌を外気に晒しながら、既にボタンを開き前をはだけさせた兄の素肌に手を這わせる。
ほんのりと色づいた胸飾りに舌を這わせ、白い肌に、幾つものへたくそな所有印の華を咲かせて。

「……っ…エリ、サ…?」
「おはよう、お兄ちゃん」

刺激に目が覚めた万里は、目の前の光景に愕然とした。
色情で桜色に頬を染め、けれどエリサの浮かべる笑みは何処までも天使のようなそれで。

「……なに、して」

なんとなく、気付いていた妹の歪んだ想い。けれど、こんな暴走をし出かすとは夢にも思わなかった万里は、ただそんな解りきった問いかけをすることしか出来なかった。

「お兄ちゃん…私、お兄ちゃんのことだいすきよ」
「ああ、もちろん俺も好きだ。でも、こんなことは違うだろう…」

汚れていかざるを得なかった万里にとって、いつまでも清らかで美しいエリサは、救いだった。自分と真反対の場所で太陽みたいに笑うエリサが、支えだったのだ。

「俺を幻滅させないでくれ、エリサ」
「っ……私じゃ、お兄ちゃんの、………に、なれない…?」
「………?」

痛む心に気付かないふりをして、わざと冷たく突き放せばエリサはぽろぽろと大粒の涙を零しながら、小さく呟く。
なにを言ったのかうまく聞き取れず、もう一度聞き返そうと口を開いたその瞬間、エリサが激情に駆られ、噛みつくように口付けてきた。

「…ん…ふっ…こ、ら…!」
「おに…ちゃ……す、き…なのぉ…っ」

ぼろぼろと涙を零しながら、ただただ純粋に自分への愛を叫ぶエリサに、万里はどうしようもなく胸が締め付けられて。

「………お前にだけは、幸せになってもらいたかったのにな――」

諦めを含んだ笑みを浮かべ、宥めるようにエリサの背中をぽんぽんと叩くと、舌でぽろぽろと零れ落ちる涙を掬い取る。
――自分が足場を作り、エリサに今のうちから上に立つもののあるべき姿を教えこみ、そして――行く行くは芹沢に…エリサを託すつもりだった。安定したら二人に、三宮グループのひとつを、任せるつもりだった。自分のように、茨の道を歩かせるつもりはなかった。

「…私の幸せは、お兄ちゃんの傍にいることなんだから。」

勝手に幸せを決めつけないで、と泣き腫らした目に弧を描かせ笑うエリサに、万里は、目を見開く。
自分の知らない間に、エリサは随分と成長していたのだ。身体も、心も。いつまでも自分の後ろで様子を伺っていたあの頃とは、なにもかもが違う。――すっかりと少女から女性へと、変貌しつつあった。

「…ねえ、だいすきよ、お兄ちゃん」

蠱惑的な笑みを浮かべ、艶やかな唇を万里の唇へと重ねあわせて。
エリサは何度だって、愛を囁く。ウソと打算に満ちあふれた三宮の鳥かごの中で、真実だけを含んだ愛の囁きを――。