主東

用があるから部屋に来いと、呼びつけられたのは今からどれくらい前のことだったか。

ノックをして暫く待っていても反応がないので、恐る恐る部屋に入ってみると部屋の主はそこにおらず、不躾にきょろきょろと辺りを見回していたら、柔らかそうなソファーが目に付いた。

――いつもご主人様が座っている椅子だ。
そう考えぼんやりと眺めていると、椅子に座り仕事をこなすご主人様に必死で奉仕したこと、ご主人様の上に跨がって事に及んだことなど、恥ずかしい記憶までも浮かんで来て慌ててかぶりを振った。
ご主人様の執務室。この先のドアはご主人様の私室で、数え切れないくらい何度も連れ込まれた。
時には執務室でのご主人様の悪戯に、そのままカーペットに四つん這いにされ行為へと雪崩れ込んだ事もあった。

「………っ」

思い出しただけで体中が熱くなり、思わず中心が熱を持つ。
慌てて鎮めようと深呼吸しても、鼻腔を擽るご主人様のかおりに、余計にそれは熱を増すばかりで。

いけないとわかっては居ても、もう止められなかった。

「……あっ、ぁ…!ご、主人…様…っ」

ご主人様のソファーにうつ伏せて、尻を突き出すような体制を取ると、早急な手付きでベルトを抜き去ると、太ももの辺りまでズボンを下ろし、パンツの上からでもくっきりと存在を主張する自身に触れた。
そうしてもう片方の指は口に含み唾液を絡ませると後ろに手を伸ばし、つぷりと後孔に差し入れる。

「ん…っ」

万里との関係を持つ前だったら到底知らなかったであろう、女と交わるそれよりも数段に強い刺激。
体内を掻き回される度にまるで脳まで掻き回されているのではと錯覚してしまうほどに、それは激しく東雲のすべてを乱してゆく。

何度も組み敷かれ植え付けられた快楽は、まるでゆっくりと身体が侵されていく遅効性の毒薬のように、じんわりと脳に染み込まれていき、いつしか東雲の身体は自分からそれを求めてしまうほどに調教されきっていた。

「……あ、ぁ…もう、もう…ご主人様…くださ…っ」

自分の指じゃ足りない。いつもみたいにご主人様のもので満たして、ぐちゃぐちゃに乱して欲しい。

段々と指の本数を増やして、前後に動かすとぐちゃぐちゃと艶めかしい水音が部屋中にこだまする。
せつなげにひくつく其処を攻め立てながら、此処にはいないご主人様の姿を思い浮かべながら自慰行為に浸った。

「……ご、しゅじ…さまっ、も…っ、イ、く……っ!!」

前も後ろも攻め立てられる快楽と、愛しいご主人様の部屋での己の痴態に、興奮は高まるばかりで。
既に声を抑える余裕などなくて、溜まらず欲望を吐き出すとゆっくりと柔らかくなった後孔から指を抜き、くたりと脱力しながら余韻に浸る。

「………はぁ、はぁ…」

ソファに顔を埋めると、ご主人様のかおりがするソファに青臭い精液のにおいが混ざり合って、ベッドのなかを彷彿とさせた。
貧欲なこの身体は達したばかりだというのに、ご主人様の熱が欲しいと疼く。ああ、でも――。

「ご主人様が帰って来る前にキレイにしとかなきゃな…」
「…………ほう。それは殊勝な心掛けだな、東雲」
「………ひっ」

聞き慣れた声とともに剥き出しの尻を撫でられ、驚いてびくりと身体を震わせながら恐る恐る振り向くと、其処にはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべたご主人様の姿。

「な、なななな…!」

なんで此処にいるんだとか、いつからいたんだとか、言いたいことは沢山あったけれど、人間驚き過ぎるとなんの言葉も出て来ないものである。
結局俺の口から出たのは意味のない言葉の羅列だけで、ご主人様は相変わらず人を食ったような笑みで下半身を剥き出しにさせたまま硬直する俺を見下ろしていた。

「ふっ、実はひとりで待つ東雲がどんな行動を取るか観察しようと思ってな。隣の部屋から監視していた。流石にまさか自慰行為を始めるとは思わなかったがな」

言いながら俺が横たわるソファーの隙間に腰を下ろし、すこし乾いてきた精液を指で掬い、それを俺の尻に塗りたくった。

「………ッ」

ただでさえ敏感になった身体に、本能で求めていたご主人様が触れる。
それだけで再び熱を持つ浅ましいこの身体に、痴態を見られていたという事実に、恥ずかしくて溜まらずソファーに顔を埋めると、背後からガチャガチャと聞き慣れたベルトを外す音が聞こえ、反射的に振り返る。と、そこには。

「喜べ、東雲。どうやら俺はお前の痴態を見て相当興奮しているらしい」

いっそ優しさが籠もった笑みを浮かべながら、既にそそり立ったものを携えたご主人様の姿があって。

ああ、どうやら明日は睡眠不足と腰痛に悩まされなくてはならないらしい。

「仕方ないっすから責任とらせて頂きますよ」

若くない自分にはかなりの負担だなと思いながらも、純粋にご主人様と繋がれることの喜びの方が大きくて。

再び尻を突き上げた自分の身体にのしかかるご主人様の重みと熱が、堪らなくいとおしかった。