ここくぜ風味

1【お題:アンビバレンス】
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――優心がそうしたいなら僕は構わないよ。

そう言って慈愛に満ちた笑みを浮かべる男が刑部は大嫌いだった。けれどそんな男を組み敷き、全てを掌握している事が堪らなく心地好くて。

――あんた、こんな”ささやか”なのでも満足出来ちゃうんですね。

自虐を含んだ嫌味に赤面したその顔だけは、嫌いじゃない。

2【お題:君が微笑む】
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☆久世貴裕雇用

――罠だったのか。

男の隣に立つ執事服の刑部の姿を見て、久世は悟る。

「無様ですねぇ」

ふふ。可愛らしい笑みを零す刑部に久世は何の反応を返すことも出来なかった。ぐったりと地面に座り込む久世に、刑部は微笑んでこう言う。

「あんたが望んだんじゃないですか。俺を楽しませたいって」

3【お題:ふわふわのそれ】
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――眠ってるのか。

テーブルに突っ伏して穏やかな寝息を立てている男の後ろ姿を見つけ、刑部はのっそりとした足取りで近づいていく。
そして気付いてしまった。キッチンに置かれた作りかけの料理たちに。
栄養面に気を配ったであろうそれらは、男が作ったものと思えぬような色鮮やかなもので。

(…なんで勝手に人ん家で朝飯作ってるんだよ)

宅飲みの翌朝、散々疲れさせた久世の身体は起き上がるのすら辛い筈なのに。なんとも言えない気持ちを自分の中でうまく処理する事が出来なくて、刑部は八つ当たりのように無防備に眠るふわふわのそれをぐしゃぐしゃと掻き回すように撫で回したのだった。

4【お題:眠れない夜】
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――またか。

脳内に語り掛けてくる悪意の声に舌打ちを打つ。

「大丈夫、優心?眠れないの?」

気付けば、隣に眠っていた筈の久世が心配げに此方を見ていた。

――ああ、そうだこいつがいたんだ。

刑部は知らず知らずのうちに口元に笑みを浮かべていた。それは、久世からしたら安堵にも似た表情に見えたという。

5【お題:文中に『怪我』を入れて【解って欲しい】をイメージ】
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「優心は、傷つきたいの?」

久世は包帯を巻きながらぽつりと呟く。

「別に。それともあんたは人を好き好んで痛い思いをするのが好きな変態とでも?」
「でも――」

久世の問いかけに鼻で笑って返す刑部の姿が、久世には堪らなく悲しくて。

「優心は自分を大切にしなさすぎる。僕はそれが辛くて堪らないんだ」