「………ゆううつ」
2月14日。時は午後19時、場所は屋敷。
僕はいつも通り持ち場を掃除していたのだが、先程からやたら他の使用人達が騒がしいのだ。
聞けば今日はバレンタインデーでご主人様は出かけた先々で女性男性問わずチョコを沢山貰っていたと言う。
その中には本命チョコも何個か混ざっていたらしい。
乃木君から聞いた話しでは出かけた場所で頂いたチョコは全て屋敷に送られ、橘さんが管理しておりその本命チョコは橘さんが奇声をあげながら庭で燃やしていたらしい。
…採用された時から思ってる事だが、この屋敷は変人ばかりだ。…僕を除いて。
バレンタインなのは知ってはいたので僕もご主人様にと徹夜をして慣れないお菓子作りに四苦八苦しながらもチョコとクッキーを作ったのだ。綺麗にラッピングもした。
だけど、肝心のご主人様が仕事で屋敷にいないのだ。
――憂鬱すぎる……。
僕は小さく溜め息を付き、持っていたホウキで部屋の角に逃げ隠れるように固まっている小さなゴミ達を掻くように角から引き摺り出した。
待ち焦がれたご主人様が目の前にいると言うだけで僕は緊張し、言葉もまともに繋げなかったが、ご主人様は気にも止めず僕の目の前にまで来た。
「ぁ、えと、ご主人様が帰ってくるのをお待ちしておりました。」
「こんな時間までか?」
「はい」
軽く会釈しながら告げるとそうか、と言い微笑み大きな手で頭を撫でてくれた。
以前なら撫でられたり触れられたりとされたら直ぐ様その手を払いのけていたのに、何時からかもっと撫でてほしい、触ってほしい、とも思うようになっていた。
そんな風にご主人様に堕ちていく自分がイヤだったはずなのに。今じゃそんな自分も受け入れてしまっている気がする。
「山本、これは何だ?」
僕が撫でられたまま物思いにふけていると、不意に撫でられていた手が離れご主人様はテーブルに置かれたチョコとクッキーが入った箱を手に持ち、聞きながら既にもう開けようとしている。
――手を出すのは何でも早いよな、ご主人様って…。
この状況、黙っていても開けられれば何かは分かる。が、一応説明だけはと思い口を開いた。
「それは、僕からご主人様へのバレンタインチョコです。」
「ほう、……これを渡すために待っていたのか?」
「………ち…ち、がいます。」
僕の返事を聞くとご主人様は完全に開けられた箱から目を離し訝しげな目を此方に向けた。
何かを言いかけているご主人様からさっとチョコとクッキーが入った箱を奪い自らの背後に隠した。
それを見たご主人様はにやりと効果音を付けたいくらいの笑みで僕の頬に触れた。
「俺の為のチョコなんだろう?何故今更隠す必要がある」
蕩けてしまいそうなくらいの甘い声と、笑みで鼻先がぶつかりそうになるくらいの距離で囁く様に言われる。それだけで心臓が踊り、顔が熱くなってくる。
2月14日。時は午後23時、場所は屋敷。
あらかた掃除が終わり、一息着いた所でやる事がなくなり橘さんに帰って良いと言われたが断り、今は一人で広すぎる食堂で大きすぎるテーブルの一角に綺麗にラッピングしたチョコとクッキーを置いて座っている。
もうあと一時間で日付が変わると言うのに、肝心のご主人様はまだ帰らない。
――せっかく作ったのにな…。
頬杖を付き、むくれたままラッピングされた小さな箱を暫く見つめていると、食堂のドアが開かれる音が聞こえ、何気無くそちらを見やると、ドアの向こうから此方に向かって歩いてくるご主人様と目があった。
「ご、主人…さま…」
「こんな所で何をしている。」
あのまま渡しても良かったけど、これは僕のほんの少しの抵抗。せっかく作ったんだ、自分の手から渡したい。
そう思うが僕の気持ちなど汲み取る気などさらさらないご主人様は僕の唇に触れるだけのキスをし、それに気をとられた一瞬の隙に、背後に隠したはずの箱を奪い去られた。
「あっ、…」
ご主人様は僕がムスッとしているのに気づいているはずなのにそれに気づかないフリをしながら、箱からチョコを一つ取り、それを口の中へ放り込んだ。
味見もしたし、市販の板チョコを溶かし型に流し込み作っただけなので味は大丈夫だが、何せご主人様は普通と違う。舌に合うかは分からない。
味を確かめる様にチョコを食すご主人様を頬を軽く膨らましたままに見ていると、不意に此方を向き、小さく微笑んだ。
「美味いな。」
「っ…ぁ、りがとうございます。」
自らの手から渡せずモヤモヤとしていたはずなのに、ご主人様の言葉と笑顔でそんな事は直ぐに吹き飛んでしまい、こんなにも幸せになってしまう僕は、もう完全にご主人様の虜だ。
幸せを噛み締めるように緩みそうになる口元を引き締めて続いてクッキーを食べ始めたご主人様を見た。
ご主人様は静かに黙々とチョコとクッキーを食べ、あっという間に箱の中身は無くなった。
焦がれてやまないご主人様に完食してもらえ、僕の心の中には嬉しいと言う言葉ばかりが出てき、一生懸命に緩む口元を引き締めていたのだが、不意にご主人様が確信した表情で此方を振り向き口を開いた。
「…山本。これ、お前が作ったんだろう」
「ぇ、…ぁ、そうですけど…何故お分かりに?」
ぱっとみて解る程に下手に作ったはずはないが、何故分かったのかが不思議で言葉を返した。
ご主人様はそんな僕を素敵な程のドヤ顔で見ながら、
「お前は今まで俺に贈り物をするときは必ず手作りだったからな。今回も手作りだろうと、分かっていた。」
「…、……。」
分かっていたにしても、何故そんなにドヤ顔なのか…。
自信満々に答えたご主人様に僕は言葉が出ず、瞬きだけを何度も繰り返した。
ご主人様はそんな僕を見てクスリと小さく笑いありがとう、と、らしくない言葉を言い、僕を抱き締めた。
「!、…」
「お前のお陰で、素敵な日になったな。」
いきなりの事で上手くついていかない脳でも、耳元で囁かれる様に言われれば嫌でも分かる。
ドキドキが治まらず何も言えない僕をご主人様は強く抱き締め、僕に言い聞かせる様に甘い、甘い、声で言った。
『来年も、俺だけにチョコを作れ』
0214 ハッピーバレンタインデーィ!
*頂いたコメント*
おはようございますー。
白夜さん覚えてますか?俺です、俺、俺、おry
篝ですマオです顔晒してた赤髪野郎です。笑
久しぶりです(〃∀〃)
今日は弄り退会前に頂いていたリクの小説をお届けに参りましたっ!
俺からのバレンタインチョコだと思って下さいましいいいいい。(
ご主人様にチョコあげたいけど素直になれない。乙女な山本
との事でしたが、希望に添えれて無かったらすみません(´;;ω;)
何せ眠かけ(2日徹夜しましt(殴)で書いたので、自分でも何書いてるか分かんなくなってしまry
でもちゃんと主×山のはず!
あ、山は山野井じゃなく山本だよ?だよ?フィー(`゜∀゜)
…すみません、寝てないからテンションが………。
リクエストありがとうございました!
もしまた弄り始めたら、その時は是非、お仲間申請させて下さいな(*≧艸≦*)
あ、俺のオリジナル小説のサイトですが、実は色々ありまして、公開未定になりました…。
一年くらい書き留めてた小説がデータ破損でパーン、俺が汗水垂れ流して書いた小説が帰らぬ物となってしまったのです\(^∀^)/ワラエルーアリエルーキャハー
なので、公開予定が決まりましたら報告に来ますね。
ありがとうございました(/)ω(ヾ)
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何度も小分けで送ってすみません…
途中で使用出来ない文字があります、と出てきて四苦八苦しました。汗
リクエストありがとうございました!
– – – – –
悔しくも引退直前に知り合うことになったのですが、それ以来繋がりが途絶えずにいられることが嬉しいです…!マオさん、待ってるので絶対戻って来てくださいまし!
サイト私もオワタ、になったことあるので凄くわかります…リアも忙しいだろうし、いつでも良いのでゆっくり作ってくださいねー!あと拍手についてはもう本当に申し訳ない…特に変な設定してないはずなんだけどな…汗
かわいい山本くんを本当にありがとうございました!私のお返しがちゃっちくて本当に申し訳ない…><